好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

4.扉の前の攻防

「レヴィ、私よ。開けて」


 扉の向こう、アリスのか細い声が聞こえてくる。レヴィに動揺が走る。
 彼は驚きに目を見開きつつ、静かに首を横に振った。


「いけません、お嬢様。こんな時間にこんなところへいらっしゃるなんて、一体何を考えていらっしゃるのですか? 誰かに見られたらどうするつもりです?」

「私、レヴィと話がしたいの。それに、誰かに見られたところで一向に構わないもの」


 泣いているのだろうか。アリスの声は小刻みに震えているようだった。


(……くそっ)


 出会ったばかりの頃、自分の心を救い出し、自由にしてくれたアリス。そんな彼女が泣いていることを想像するだけで、レヴィは心と体が引きちぎられそうなほどに苦しくなる。


 本当は今すぐこの扉を開けて、アリスのことを慰めてやりたい。
 思い切り抱き締めてやりたい。


 悲しいことも、苦しいことも、かわれるものならかわってやりたい。アリスのためなら、レヴィは人を殺すことだって厭わないだろう。

 本当に、なんだってしてやりたいと思うのに――――今、この扉を開けることだけはしてやれない。

 レヴィはそのことがもどかしくてたまらなかった。

 
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