好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

5.レヴィの決意

 翌朝、アリスは何事もなかったかのように部屋から出てきて、家族と一緒に朝食を取った。

 レヴィはその様子を陰からそっと見守りつつ、小さくため息を吐く。


(良かった……昨夜のこと、引きずってはいらっしゃらないようだ)


 アリスの部屋の前で別れたのはほんの数時間前のこと。当然レヴィは一睡もできなかったし、アレコレと考え事をしてしまった。

 アリスの結婚相手がどんな男なのか、結婚式はいつ頃なのか、ウェディングドレスはどんなデザインにするのか、アクセサリーは、ブーケの花は――――本当なら、そういう前向きなことを考えて気を紛らわせたかった。

 だが、できなかった。

 アリスの温もりを、甘さを、柔らかさを、愛らしい声と言葉を思い出し、頭の中がいっぱいになってしまう。己の唇に触れては首を振り、なかったことにしようと努力する。自分自身に忘れろと言い聞かせる。


「あの、大丈夫ですか? レヴィさん」


 そのとき、侍女の一人からそんなふうに声をかけられた。大人しく控えめで真面目な女性で、華やかな女性を揃えた伯爵家の中で目立たない存在だ。レヴィに話しかけるまで相当な葛藤があったらしい。表情から躊躇いがうかがえる。


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