さよならの続き
全て聞き終えるころには、私の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

『さよなら、元気で』

あの時、航平はどんな気持ちでそう言ったんだろう。
もし私が無理やりにでも引き留めていたら、何かが変わっていたはずなのに。

「そういうことだから、金井くんとよりを戻してほしい」
「…そんなことを知って、わかったなんて言えるわけないじゃない。私はあなたのことがーー」
「この話を聞いてもまだそんなふうに思えるのか。君は現実が見えてないよ」

航平は俯いて、馬鹿にしたようにふっと笑う。
だけどそれはどこか自虐的で、ますます胸が苦しくなる。

「俺の望みを聞いてくれないか。君は金井くんと出会って幸せに暮らしていのに、俺のせいで君の気持ちを乱したんだ。このままじゃやるせない。…わかるだろ?」

切実さの滲む声に、言葉は出て来ずただ首を横に振った。

「俺は別にいつ死んだってかまわないんだ。もう両親もいないし、親戚も疎遠だから。ただ、君のことだけが心残りなんだよ」

今気がついた。この部屋が殺風景な理由。
突然訪れるかもしれない死を意識して、必要最低限のものしか置いてないのだ。
アルコールを飲まないのも、身体に負担をかけないためなのかもしれない。

しばらく重い沈黙が続いたあと、航平はあぐらを崩して片膝を立て、前髪を握ってため息を吐いた。

「…帰ってくれないか。話すべきことはもうないから」

冷たい声ではない。ただつらさに満ちた声だった。
今の話を咀嚼できていない状態で、ここに居座ってさめざめ泣いても迷惑になるだけだ。
立ち上がって静かに部屋を出た。

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