おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

 両親とスタジオの前で別れ、控室に戻ってきた千春は早速ドレスを脱ぎにかかった。
 しかし、背中のファスナーがどうしても下せない。
 アテンド係はブーケを包みなおすために、一旦バックヤードに戻って行った。控室にやって来るのをちんたら待っていられるか。綺麗なドレスには申し訳ないが、一刻も早く脱ぎたい。
 千春は仕方なく花嫁用のフィッティングルームのカーテンを開けた。

「香月くん、悪いんだけど背中のファスナーだけ下ろしてもらえる?あとは自分で脱げるから」
「もう脱ぐのか?」
「当たり前でしょ?撮影終わったんだから!」
「ちぃ」
「ん?」

 千春の眼前に香月の顔がドアップで迫る。あ、と思った時には遅かった。目を瞑る猶予さえ与えられない早業だった。

「ん!?」

 キスされていると自覚した瞬間、喜びよりも驚きの方が優った。無遠慮に侵入してくる香月の舌の動きに頭が追いつかなくなる。
 唇が離れていく際のちゅっという軽い水音がやたらと艶かしく響いた。

「今日のちぃは今まで見た中で一番綺麗だ……」

 目を細め照れ臭そうに笑う香月にドキンと胸が高鳴る。
 この非の打ちどころのない男性が自分の夫なのだと思うと、なぜか動悸が止まらなくなった。

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