大変恐縮ではありますが、イケメン執事様と同居させていただいております。
…チッ。早かったな。

背中に聞こえた声に心の中で舌打ちをする。


私は先日授業で習った美しいバランスの微笑みをニッコリと浮かべて、振り返った。


「あら聖司くん、ごきげんよう」


そこにいたのは、燕尾服姿でピンと背筋を伸ばす、私の執事。

鶴城(つるぎ) 聖司(せいじ)

艶やかな黒髪に、スッと伸びた鼻筋、知的な印象を受ける薄めの唇。

その雰囲気のある切れ長な目に絡めとられた女性は、一人残らず心を奪われてしまうとか、しまわないとか。

できものなど何もない肌に唯一のる目の下のホクロが、聖司くんがセクシーだと噂される所以なのかもしれない。

……聖司くんはイケメンだ。

お嬢様人気ナンバーワンの、イケメン執事だ。

でも……

聖司くんはただのイケメンじゃ、ない。


「こんなところで何をしてらっしゃるのです?茶会の準備のお時間です」


たくさん私を探し回ったのだろう、いつもピシッとしてるはずの着こなしをちょっと崩した聖司くんのこめかみには、ピキリ、青筋。

めっちゃ怒ってんな~と思いながら、私はお嬢様然とした声で言って差し上げる。


「今からひとっ走りして山超えてきますからあとよろしく。じゃ」

「お待ちください」

「うぐっ」

セーラーの襟をむんずと掴まれた。

聖司くんの整いすぎてる顔に、これまたにっこりと美しいバランスの微笑みが浮かんだ。
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