約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される


「会談、お疲れ様でした」

「本当に疲れましたよ」

 わたしは率直な返事をする。繕う余裕などなく、心から疲弊していた。後部座席で横たわりたいくらいだ。

「こちらをどうぞ」

 ペットボトルを差し出され、勘ぐってしまう。

「ただの水です、何も入ってません。鬼姫をここに呼んだら大変な目に遭いますしね」

「あのお茶って?」

「私の研究の一部です。鬼姫の活動を促進する効能があります。後からレポートに纏めますね。読まれますか?」

「いえ、いいです」

「ちなみに味は不味かったですか?」

「そこ、気になります?」

「はい。あなた用の薬なので、せっかくでしたら好みの味に仕上げたいじゃないですか」

 研究熱心というか、なんというか。ため息が出てきた。

「水には本当に細工してませんので、飲んで下さい」

 と言われてもいまいち信用しきれず、口を付けないで窓の外を眺める。

 一族会談は1時間もかからなかったが、情報量が多いうえ内容も濃かったので体感時間は長かった。

「先生もーー鬼、なんですよね?」

「ええ、そうです」

「血は?」

「飲みます」

 あっさり認める。

「美雪さんもですか?」

「あの子は違います。お伝えした通り、女性の鬼は鬼姫以外に確認されていません。あと最近だと男性も6割程度は鬼としての力が宿らず、春野や秋里の男性陣に鬼がいない状況ですね」

「美雪さんは鬼が怖くないんですか?」

「一族の女性達には鬼の男児を産むのがステイタス化してます。鬼は見目麗しく、頭脳明晰、運動神経にも恵まれ、社会的な成功を約束されているに等しい。
美雪は兄の私が鬼である分、鬼の子を授かる可能性が高いと見込まれ、千秋様の花嫁候補となりました」

「また約束、ですか。婚約までしながら一方的に破棄するなんて勝手過ぎます」

「ふふ、そんなに美雪が気になります? それとも千秋様?」

「……」

 車は静かに進む。わたしは質問に答えなかったが、四鬼さんも美雪さん、どちらも気になる。
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