約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「おい! 俺の話を聞いてるのか?」

「き、聞いてるよ」

 聞いているものの、強盗が人の血を飲む鬼であるなんて言えない。しかも、高橋さんも襲ったと言えるはずない。 
 涼くんを納得させる言い訳をぐるぐる巡らす。

「今日も練習ねぇし、帰る」

「帰るって今から? 午後の授業があるのに?」

「そういうお前だってサボってるじゃないかよ」

「そうだけど」

「露骨に隠し事されるのは気分が悪い。どうせ下らねえ話だろうが、一応は聞いてやる。待ってろ」

 と、通話を切られてしまった。
 ツー、ツー、という音がわたしをますます焦らせる。

 涼くんの足だと帰ってくるまで時間はかからない。いっそ外出してしまおうか過る。しかし、それでこの場はしのげたとしてもお隣さんである以上、いつまでも顔を合わせないのは無理だ。

 あげく警察が絡んでくるのが問題だ。携帯の紛失を勘違いで済ませてくれるだろうか。何処にあったかなどの質問をされたら、冷静に答えられる気がしない。

【はは、確かに犯罪ですね。しかし四鬼家が揉み消します。浅見さんの自宅を襲ったり、同級生を怪我させた犯人も一族が裏から手を回して処理されるでしょう】

 対処方法を必死に考えるうち、この柊先生の発言に行き着く。
 わたしはすぐさま四鬼さんの番号を祈る気持ちで押した。
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