約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「わたしは鶴じゃありません」

 昔話に例えられ、ふふっと笑う拍子に涙が溢れた。

「つまり、わたしーー鬼姫が浅見桜子に擬態していたので一族は見付けられなかったんですね?」

「鬼姫の擬態は周囲を巻き込んだ大掛かりなもので綻びが無かった。僕と君がバス停で出会ったのは鬼姫側の意思が働いたんじゃないかって」

「四鬼さんと初めて会った日、お祖母ちゃんの家に向かおうとしてました」

 わたしは四鬼さんの胸へ埋まる。

「調べた所、浅見桜子の祖母は既に亡くなっている。桜子ちゃんがお祖母様の話をしたからトリックに気が付いたよ」

「わたしが知っているお祖母ちゃんは?」

「鬼姫の思念みたいな存在かな。詳しい事は分からないけど、君たちは意思と身体が分裂していて、それがひとつになったことで掛けられていた魔法が解けた? みたいな」

「お母さんみたいに、みんながわたしを忘れてしまったの?」

「皆じゃない、僕は君を忘れてない。柊だって覚えているじゃないか? 大丈夫、君はここに居る。居てくれ!」

 浅見桜子として過ごした月日が偽りだとは思えなかった。実感がわかないのに、こんなにも心細い。
 わたしの居場所が崩れてしまったみたいだ。

 過保護なお父さんとしっかり者のお母さん、それから涼くんとの繋がりが鬼の力よる幻だなんてどうしても受け入れられず、声を上げて泣いた。
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