約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「涼、くん」

 名を呼ぶと、困惑を吸い取るように唇をぶつけられる。

「んっ」

 あぁ、涼くんの唇が堪らなく甘い、血は美味しい。いけない、駄目だと分かっていてもたちまち夢中になる。
 当主が見ているのを忘れ、甘美な口付けに溺れ、鼻から自分の息とは思えない声が抜けた。全身に涼くんの血液が巡り震える。

「ちよ、ちょっとここまで。一旦ストップ!」

「へ?」

「へ? じゃないだろ。自分が今どうなってるか見てみろ」

 指摘され、我に返る。そして涼くんのシャツを脱がそうとしているのに瞬く。

「こ、これは!」

 恥ずかしさで弾かれる直前、血行が良くなった耳元で囁かれる。

「お前さ、血を飲むとエロくなるんだぞ。こんなんじゃ、他の奴のなんか飲ませられねぇだろ?」

 涼くんの血を飲むと記憶が曖昧になるが、まさかこんな大胆な行動をしていたなんて。

「ーーって、鬼になってないよね?」

「ならねぇって言ってるだろうが」

「じゃあ、身体は平気? 貧血起こしてない?」

「問題ない」

 涼くんが呆れて肩を竦めた。

「はは、あはは、なんだ本当に茶番じゃないか。そうか、姫はもう……これは付き合っていられないな」

 当主まで呆れた笑いをする。馬鹿にした態度を睨むと、なんと両手を上げ降参を示す。

「私は効率の悪い事はしない質でね。鬼姫と喧嘩しても勝機がない」

 こうもあっさり引き下がるとは信じがたい。涼くんに目配せすると、何故か窓を開け換気を始めた。

「なんで窓を開けるの?」

「ほら」

 涼くんが顎で当主を差す。当主は夜風を吸おうと窓辺へ這って向かい、咳き込みながら新鮮な空気を取り込む姿は苦しそうだ。

「わたし何もしてないけど?」

「……無意識でこんな匂いを振り撒くなんて拷問だな。俺も鬼だったらあんな風になるのかも。まぁ、いい行くぞ」

「え、え、待って!」

「あいつは放っておけ。お前が離れれば具合は良くなる」

 今にも吐きそうな当主を置き去りにし、わたし達は場を後にする。
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