約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「昨日の今日では記憶が鮮明すぎて怖いでしょう。警察の方に詳しくお話されたでしょうから、もう思い出したくないですよね?」

「……はい」

 目を閉じ、警察から事情を聞かれた様子を浮かべる。
 犯人の特徴を【鬼】と表現した際、精神的なショックからそう見えたのだと取り合ってくれなかった。わたしの証言は精度を欠くと判断されてしまう。
 警察が信じないのだから誰に相談しても無駄だ。

「いえ、警察の人は事件を解決しようとしているだけなので怖いとは……。思い出したくないというより、思い出せないというか。実は記憶がはっきりしないんです」

 これは嘘、わたしは【鬼を見た】お祖母ちゃんに化けた鬼を見た。警察だけじゃない、涼くんを始め、お母さんまで信じようとしない。わたしの主張をみんなは【犯人が鬼のように見えた】に変換する。

 あれは【鬼】。そうとしか言い表せないのに。

「浅見さん、少し深呼吸しましょうか」

 気付けばペンを軋むほど握っていた。
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