約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 親子だけあって会長と四鬼さんの雰囲気は似ており、涙ボクロがある。会長職に就く位ならばお父さんより年齢が上だろうに、四鬼会長はかなり若く見えた。
 この甘い香りは撫で付け髪からするのか、つい鼻を鳴らしてしまう。

「もしかして甘い香りでもするのかな?」

 甘い香りはした。でも、あまり好きではない。

「え! いえ、すいません! 整髪料が香るのかなってーーはしたないですよね、すいません」

「いや構わないよ。惜しいな、姫が私の代に生まれてきてくれれば良かったのに。あぁ、そうしてしまってもいいのか」

「姫ってそういう呼び方は、その」

「姫は姫、君は姫だよ」

 会長は断言して頬へ手を添える。微笑みの形は同じでも瞳が仄暗く、何を考えてるか分からない。
 触れる会長を拒めず、そのまま固まってしまった。

「当主様、浅見さんのご両親がみえました」

 柊先生が割って入り、次の訪問者が到着したのを知らせる。

「桜子!」

 お父さんとお母さんの顔を見た途端、わたしは子供みたいに両手を広げた。

「心配したんだぞ、桜子! お父さん、生きた心地がしなかった!」

「お父さんってば泣かないで」

「桜子に何かあればお父さん生きていけない!」

「もう大袈裟だなぁ」

「大袈裟じゃないわよ。お父さん、ここ3日間ろくに寝てないし、食べてないの。お母さんだって心配したのよ」

 お母さんがハンカチを目元にあて、お父さんに思い切り抱きしめられる。

 そんなわたしを会長は冷めた目で見下ろし、会長を柊先生が横目で眺めていた。
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