声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
 お兄さまのお部屋は私の部屋を出て左に進んだ突き当りにあります。
 何かあればいつでもおいで、と言われていますが、実際に行くのは初めてです。

 扉の前に立って耳を澄ませますが、お部屋にいるのかどうかもわからないほど静かです。
 私はそっと扉を開いて中の様子を見てみます。

 扉から見える真っすぐのところに、机に向かっているお兄さまがいました。
 何か文字を書いているようでそのお姿は凛々しく、背筋の伸びた美しい姿勢です。
 日の光が窓から差し込み、お兄さまをより輝かしく照らしています。

 かっこいい……。

 自分ではっとします。
 幸いにも声には出ていませんが、思わず口を開いて話す仕草をしてしまっていました。
 最近はなんだかお兄さまのことが気になってしかたなく、いつもお兄さまのことを考えてしまっています。
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