声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
「ラルス様、好きです」

 え……?
 私は気づかなかったのです、柱の陰に隠れて見えなかった女性の姿に。

 その女性はそう言いながら、お兄さまの胸へと飛び込みました。

「ユーリア」

 お兄さまがその女性の名前を呼ぶのを聞いた瞬間に、私は気づけは振り返って走り出してしまっていました。

「ローゼッ!」

 私のことを呼ぶ声が聞こえた気がしましたが、私は夢中になってパーティー会場を飛び出して走ります。

 そうだ、当たり前だ。そんなわけない。そんなわけないんです。あんな素敵なお兄さまに恋人がいないなんてあるわけないんです。


 私の初恋は誕生日に儚くも散ってしまったのです──
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