崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
***

「若造めが! 入社してくるなり役付きになったようなお前なんぞに指図される覚えはない!」

 直樹が(じん)に一礼して立ち去るのを見て、江根見(えねみ)則夫(のりお)が吐き捨てるように言葉を投げ付けた。

「――ほぅ。それが本音かね?」

 尽がククッと笑うと、則夫が鼻白(はなじろ)む。

「当然だろう! わしは何年もかけてやっと部長(ここ)まで昇りつめたというのに! 入ってくるなり常務取締役とか! よくは知らんが、どうせ親の七光りか何かだろう! ――いや、ある意味左遷(させん)か?」

 則夫の言葉に尽は眼鏡越し、スッと瞳を(すが)めた。

「左遷?」

「だってそうだろう! お前は元々アスマモルの方で開発研究部所長を務めていたんだ! その子会社のうちに飛ばされるとか……いくら常務取締役なんて肩書を与えられたとしても、(てい)のいい島流しじゃないか!」

「島流し、とは随分な言いようですね。江根見部長はご自分の勤め先をそんな風に思っていたという見解でよろしいですかな? ――もしそうだとしたら、ミライ(うち)に対して相当に失礼だ」

「失礼? はっ! そう思わないとお前自身がやっていられないだけだろう!」

 則夫の言葉に、尽は心底呆れ果ててしまう。

「確かに私はここへきて一年ちょっとの新参者ですがね、貴方のようにミライを卑下(ひげ)したことは一度もない。まぁもっとも――」

 そこで直樹が初老の男性を伴って戻ってきたのを見て、ちらりとそちらに視線を流して一礼すると、尽はそのまま続けた。

「親の七光りと言うのは当たらずとも遠からずだ。こちらへの異動願いを出した際、私はそう言ったものを確かに使わせてもらったんでね」
< 292 / 351 >

この作品をシェア

pagetop