大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
「ガーデンという異空間世界で魔物と冒険者が命のやり取りをする。それが過酷な状況であればあるほど、楽しく美味しくガーデン料理を食すことに大きな意味があるというのが、調理士として私が行きついた持論です」
 初心者たちは神妙な面持ちでハリスの話に耳を傾けている。
「ガーデンには私ですらまだ遭遇したことのない魔物や食材が多数存在しています。初めて食べる食材は必ず解毒効果のあるハーブや木の実と一緒に食べることを覚えておいてください。そして新しいレシピを思いついた際は、ぜひ私にも教えてください」
 最後にちょっぴり笑いを誘って、ハリスは説明を締めくくった。

 出来上がったマンドラゴラのポトフを全員に配り終える頃には、テオの畑作業も終了した。
「お疲れ様」
 リリアナが笑顔で差し出したポトフを、テオは無言で受け取る。
 
 寡黙であまり感情を表に出さないハリスに、初心者たちの命を危険にさらした件で強く叱責されたことを反省しているのなら、ずいぶん成長したわねとリリアナは内心喜んだ。
 しかしテオが呟いた言葉でそれがあっさり砕かれる。
「ひとりで倒せると思ったのに……俺もまだまだだな」
「ちょっと! 反省すべき点が違うでしょう?」
 己の浅慮を反省しても、他人に迷惑をかけたことはどうでもいいと思っているテオの様子に呆れてしまう。

「テオにおかわりなんてあげないからね!」
「待てい! 俺の方が先におかわりしてやる!」

 テオはマンドラゴラの顔にかぶりついた。
 たまたま顔の部分が当たってしまった他の初心者たちはおっかなびっくりの様子で恐る恐る口へ運んでいるが、テオはお構いなしだ。
 
 リリアナも苦笑しながらポトフを食べ始める。
 煮込まれて半透明になったマンドラゴラはとろけるように柔らかくなっており、スープがしっかりしみ込んでいる。
 奥歯で潰すように噛むと、マンドラゴラの甘みとスープの旨味がジュワっと口の中にあふれる。全ての具材の甘みと旨味が最大限に引き出され、それが凝縮した味わい深いスープだ。
 カリュドールのパンチェッタもちょうどいい塩加減で、主張しすぎずにほかの具材との調和を保っている。
 優しい味わいにホッとして肩の力が抜けていく。

 おかわりをしたのはリリアナとテオだけではなかった。
 ガーデン料理を始めて食べる初心者も多かったが、こんなに美味しいものだとは思っていなかったと言いながらこぞっておかわりをしていたのだった。

 みんなが笑顔でポトフを食べている様子を一通り見てから、ハリスはようやくポトフを口にしていた。
 あり得ないハプニングを起こしてしまったことに関して、表情には出さなかったものの彼はひどく動揺していたのかもしれない。
 どうしてマンドラゴラがあんなに急成長していたのかという疑問と、テオの暴走を咄嗟に止められなかった反省、もしも初心者たちが巻き込まれていたらと想像して押し寄せて来る恐怖。
 責任感の強いハリスのことだから、リリアナ以上にそれを強く感じているだろう。
 
 ポトフを食べてホッと表情を緩めるハリスの様子を見て、マンドラゴラにはもしかすると気持ちを落ち着かせる効果もあるのかもしれないと思うリリアナだった。
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