愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください

「それはそうと今回の件で彼らはかなり罪が重くなった。やえさんのことも久賀のことも、俺が絶対守って見せるから、任せてもらえないだろうか」

石井さんは深々と頭を下げる。頭を下げないといけないのは私の方なのに。

「石井さん、引き続きよろしくお願いします。こんなに頼もしいことはないです」

胸に熱く込み上げる。

叔父さんと叔母さんの家にいたときは私の味方は私だけだと思っていた。誰かに頼ることもできずにとにかく波風を立てないように生きてきて……。

でも今は違う。

私の周りには智光さんがいて石井さんがいて会社のみんながいて……。

たくさんの人たちに支えられて私は生きている。
それがとても嬉しくてありがたい。
死にたいだなんて思っていた過去の自分はもうどこにもいないんだ。

どっぷりと日が暮れて、面会時間終了を告げる音楽が耳に届く。私は静かに立ち上がった。

「智光さん、明日はきっと起きてくださいね。私、待ってますから」

ぎゅっと手を握ってからくるりと背を向ける。

本当はずっとずっと側にいたい。でも病院のルールにも従わなくてはいけないし、みんなから散々心配された、自分が元気でいることもちゃんと守らなくちゃ。

後ろ髪を引かれる思いで病室の扉に手をかけた。

「やえ、キスで起こして」

智光さんの声が耳に響く。
振り返るも、智光さんは目を閉じたまま。

……幻聴?

「智光さん?」

声をかけるも、やはり反応はなく。私は再び智光さんの元に戻る。

「キスで目を覚ましてくれるなら、いくらでもしますから……」

私はそうっと智光さんの頬に顔を寄せる。
ちゅっ……とお世辞にも上手くないキスを落とした。

とてもとてもドキドキした。
けれどたくさん想いを込めた。

ぽっかり浮かぶ月がとても綺麗な夜だった。
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