愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください

「やえ、ご飯粒ついてる」

「はっ」

私は慌てて口元を拭う。

昨日の今日だよ、私。しっかりしろ。
おそまつさま、なんて失敗は二度としないぞ。

念入りに口元を拭っていると、智光さんがくっと吹き出す。

「やえって意外と天然?」

「え……」

「いや、人は見た目だけじゃわからないんだなと思っただけだ」

「それってどういう……?」

「うん? やえは何でもそつなく完ぺきにこなすイメージだったけど、意外とそうでもない」

「うっ。なんか刺さります」

思わず胸の辺りを押さえる。
自分の不器用さを暴かれているようで焦ってしまう。

「悪い意味じゃない。そんな一面が見られて嬉しいと言う意味だ」

「智光さんだって、そんなに良く笑う人だとは思いませんでしたよ」

「そうか?」

「そうですよ」

私たちは見つめ合う。

まだ一日しか一緒に暮らしていないのにたくさんの発見がある。そのどれもがとても新鮮で尊い……と私は感じているけれど。

「だったらやえのこと、もっと知りたいと思う」

ドキリと胸が高鳴る。
でもそれは私も同じ気持ちで。

「私も智光さんのこともっと知りたいです」

そう言えば、柔らかい笑みが落とされ、その優しい表情にどうしようもないくらいの愛しさが込み上げた。
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