愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください
熱いお湯でシャワーを浴びても頭がリセットされることはなく、先ほどのとをずっと考えてしまう。

抱き枕のように後ろから抱きしめられて髪に顔を(うず)められた。
ドキドキして心臓が破裂するかと思った。

あれは……智光さんは寝ぼけていたのだろうか?
私を抱き枕と間違えて……?

「あっ……」

ドライヤーをかけながら首に小さな痣を見つけた。
何でこんなところに……とよくよく確認すると赤いような紫のような……。

そういえば智光さんに抱きしめられたとき、首筋に一瞬痛みが走ったことを思い出す。

って、これってもしかしてキスマーク?!

一気に顔がボッと赤くなる。

やだ、どうしよう。
恥ずかしい。
ちょうど髪の毛で隠れるけれど、変に意識がそこに集中してしまう。

ドキンドキンと鼓動が速くなる。
よくわからないこの気持ちはなんだろう。
体の奥からわきあがるどうしようもない感情。

そっとキスマークに触れる。
別に痛くも痒くもない、ただのアザなのに。
どうしてかそれを嬉しいと思ってしまう自分がいることに気づいてしまった。

「……どうしよう」

ああ、本当に。
私を惑わせないでほしい。
智光さんのことが好きだと改めて自覚させられてしまうから。
智光さんの慈悲に甘んじてしまうから。

必死に自分を戒めようとするのに、左手の薬指にはまる結婚指輪がそれを許してくれない。

ずっと一緒にいられたらいいのに……。
智光さんが私のことを好きになってくれる、そんな奇跡が起きないだろうかと願わずにはいられなかった。
< 90 / 143 >

この作品をシェア

pagetop