愛しのディアンヌ
「あたしはここにいるわよ! 中にいるのよ。ブルーノ、そこに見張りはいないの?」

「いないよ。ここ、木戸に南京錠がかかってやがる。クソッ。こんなもの、おいらが斧でぶっ壊してやるよ」

「気をつけてね」

 ブルーノは南京錠を壊すと豪語したが無理だったのか、結局、木戸をぶち破る事にしたらしい。ガンガンと刃先を振り下ろしている。

 納屋の木戸がザックリと割ったブルーノが入って来て、すぐさま、器用な手つきで拘束具を解いてくれた。

「どうしてここにいると分かったの?」

「おいら、ずっと走ったぜ。追い駆け続けて馬車の後ろにしがみついたのさ。おいら、ルイージさんにこの事を教えたんだ。ルイージさんに会いに行った。遅くなってごめんよ。ルイージさんもここにいるよ」

「ルイージと一緒に来たの?」

「ルイージさんは次の演奏会場の街に行こうとしていた。だけど急いでここに来たのさ。ルイージさんは、あっちで悪党と向き合っている」

「悪党ってルチアさんのこと?」

「黒髪の怖い顔の女さ。ルチアっていうのかよ」

 私は藁にまみれている。

「お姉ちゃん! 大変だったよね」

 ブルーノが自分の上着を脱いで差し出している。私は寒さに震えていた。

 立ち上がりたいのに足がふらついてしまう。すると、ブルーノが私の身体を支えて誘ってくれた。

「おいらの上着を貸してあげる。ねぇ、歩けるかい? 肩を貸してあげるよ」

 介抱されながら納屋から外へと出たが私の足元はフラついている。脇を見るとルイージの馬が納屋の前の柵に繋がれていた。屋敷に入ると、応接室から言い争う二人の声が聞えてきた。

 ルイージとルチア。二人はテーブルを挟んで向き合っている。ルイージの顔は殺気立っている。

「いい加減にしてくれ」

 ルチアは古いソファに座ったまま愛しげに見上げている。ルチアが悲壮な声音でルイージに告げる。
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