恋愛したことのない仕事人間が、真っ直ぐに愛を告げられまして。



「それにね、千花ちゃんには感謝でいっぱいなんだ」

「え? 感謝? 感謝されるようなことしてないと思うんですけど……」


 それは、ない気がするんだけど。


「まだ介護士で一年目が過ぎた頃のことなんだけど。俺、人前で何かするのが苦手でね。レクリエーションとか本当に苦痛で……そんな時に千花ちゃんが来たんだよね。確かインターンシップで、その時にあの時の子だって気付いたんだけどなんとなく愚痴をこぼしちゃって『レクリエーションがうまくいかない、苦痛だ』って。その時ね、千花ちゃんが言ってくれたんだよ。『自分も楽しんじゃえばいいんだよ。うまくできなくても失敗してもいい。ただ、自分が楽しくやっていれば、その空間も楽しいものになって、利用者さん(みんな)も楽しくなるから。』って」

「そ、そんなことを言ったの……私」


 何その自信満々発言は……まだ学生の身分で、社会人に向かってなんてことを言ったんだ。


「うん、驚いたけど。すごい楽になったんだよね。ずっと、楽しませたいとかそういう思いでやっていたからすごく気が楽になってさ……それからは楽しいことをじゃなくて、楽しいことができるようになったんだよね。そしたら苦痛なんてなくなって、楽しかった。お礼を言いたいって思ったのに、インターンは終わっちゃってて会えないし学校で会いに行こうと思ったけどそれはできなくて。もしかしたら九条に就職するかもなんて思ってたのに就職はしてこなかったしさ。」

「実習でお世話になった場所に就職したんです……学校の推薦と、施設からの熱烈なアピールがあって」

「うん、それは少し君の友人に聞いた」

「そうなんですか」


 なんだか申し訳ないな……


「うん。だけど、今こうやって話せるしアタックもできる。とても幸せだよ……答えはすぐじゃなくていいから」

「……はい。ありがとうございます」


 陽世さんは「じゃ、ラーメン食べに行こう。昼が終わっちゃう」と言って車を出発させた。






 









 


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