"ぶっきらぼうで笑わない女神"の恋愛事情
「ただいま」

店のドアをガラガラとスライドさせた。

「お帰りなさい」

直子が笑顔で出迎える。

「お邪魔いたします。お忙しい中、お時間をいただきまして、誠にありがとうございます」

「いいんですよ。なんとまぁ、素敵な方なんでしょう」

「お母さん、前に、修学旅行生が発作を起こして、ここで休んだことがあったでしょう」

「ええ、覚えているわ。あれから発作はどうかしらね。少しは良くなったかしらね。あのハンサムくんがどうかしたの?」

「お兄さんだよ」

「え?」

「あの時のハンサムくんのお兄さんだよ」

「え⁉︎えぇぇぇぇぇ⁉︎ そ、そうなの?どうして、何がどうなっているのかしら!」

「その節は弟が大変お世話になりました。今は、発作も滅多に起きません。ご心配いただきありがとうございます」

「そうですか、それを聞いて安心いたしました。さぁ、こちらにお掛けになって」

直子がテーブル席の椅子を引く。

「2階がいいかしらと思ったんだけど、お昼を準備してあるから、ここでいいわよね」

「うん、ここでいい」

「これ、どうぞ召し上がってください」

恭平が手渡したのは、高御堂家御用達の高級上生菓子だ。一人暮らしの直子にはあまり量はいらないだろうと、職人が一つ一つ丁寧に作り上げたものが数個桐の箱に収められている。

「まあ!これは、有名な上生菓子じゃないの!こんな貴重なものを頂いてよろしいのかしら」

「どうぞ」

「では、ありがたく頂戴します」

直子が手土産を受け取り、収めると、恭平は姿勢を正した。
< 144 / 197 >

この作品をシェア

pagetop