"ぶっきらぼうで笑わない女神"の恋愛事情
真琴は足早に電車に乗り込むと、自宅マンション近くのネイルサロンに駆け込んだ。

「いらっしゃいませ」店員が笑みを向ける。

「予約していた葛葉です。申し訳ありません、少し遅くなってしまいましたが大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ、早速始めましょうか」

「お願いします」

真琴は真っ白なパイプ椅子に腰掛け、コンプレックスである関節の太い手を差し出した。

「今日はオセオンカラーでしたよね。2パターン考えているんですけど、派手目にしますか?上品な感じにしますか?」

「上品な感じでお願いします」

「かしこまりました」

ここは、オタク界隈で有名なサロンだ。
店長自身が2次元のファンであり、スタッフも皆推しがいる。そのため、大半のキャラクターカラーを把握しており、予約の際、推しのキャラクターを言えば、そのイメージカラーで施してくれる。真琴も予約時にオセオンのファンであることを告げていた。

真琴の爪はサロンスタッフの手によって綺麗に飾られていく。スカイブルーのオセオンカラーが真琴の心を踊らせる。明日は待ちに待ったオセオンの特別ファンイベントだ。
神戸にあるホテルでの開催なので、都内に住む真琴は遠征組。もちろん、そのホテルの宿泊予約も手配済みだ。
高級と言われるホテルなので、懐は痛いが喜んで払わせてもらう。真琴の働く意義は、全てオセオンのためにあるのだから許容範囲だ。

しかも、神戸は真琴の憧れの地。
未曾有の震災に遭いながらも、強く、たくましく、美しくある街。真琴が初めて好きになったアニメの聖地が神戸港なのだ。

ノースリーブのマキシワンピースを纏った主人公マリアが、朝陽を浴びながら潮風に吹かれ神戸港を歩く姿が美しく、いつか同じように歩いてみたいと思っていた。
憧れの神戸で愛しいオセオンに会えるのだ。こんな形で実現するとは幸せこの上ない。
< 4 / 197 >

この作品をシェア

pagetop