婚活
彼女
加納さんが愛おしく思えた。愛おしいというのは、まるで自分を見ているようだからなんだ。気付いた時には、大切は人はもう傍にはいなくて……。それでも加納さんは、彼女の事を未だに忘れられずに居る。目指していた心理学の勉強もやめてしまったほどに、断ちきりたいぐらい自分の仕事を恨み、仕事を変えてはみたものの、それでもやはり今でも彼女を忘れられずに居る加納さん。私も加納さんのようになるのだろうか?加納さんには申し訳ないが、なりたくない……な。
「沢村さんには、僕と同じ轍は踏ませないから」
「加納さん」
同じ轍は踏ませないって……。
「沢村さんが僕を必要とする時は、必ず馳せ参じるから。沢村さんは、沢村さんらしく。誰に左右される事なく、今以上に素敵な女性になって欲しい」
「加納さん……」
「頑張るだけじゃ、駄目なんだよ?いろんな事に対して努力しないと。これが一番自分にとって、難しい事なんだけどね。誰しも自分に厳しくなるのは難しいから」
「はい」
加納さんは私のために、単刀直入に敢えて言いづらい事も言ってくれているんだ。
「相手に求めるばかりだけじゃなくて、求められる人間になる事が一番だと思う」
求めるばかりだけじゃなくて、求められる人間になる。なれるだろうか、私に。
「求められるって事はそれだけ魅力があるわけで、言い方を変えれば、言葉で威圧したりする襲撃よりも、優しくも心の残る言葉を発した者の方が人間の心を動かす。だけど、口先だけで言ったとしても説得力はない。それは経験がものを言うからね」
「……」
「よく言うでしょ?見かけ倒しって。あれはそういう意味なんだよ。いくら綺麗に着飾ったとしても、心が貧弱で乏しい発想しか出来なければ、いくら格好で脅かしたとしてもすぐにバレてしまうんだ。そういう後天的な付き合いは、沢村さんにはして欲しくない。発展的でないとね」
「加納さん……。私……」
胸がいっぱいになった。こんな私のために、ここまでいろいろ忠告してくれた人が未だかつて居ただろうか?加納さんが初めてだと思う。加納さん。私は貴方の良さを上辺だけしか見ないで判断していた気がする。本当は貴方が一番、私の事を理解してくれていたのかもしれない。でも加納さんの心には、まだ彼女が居て……。
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