婚活
「いくら身元がしっかりしてるとはいえ、やっぱり世の中、悪い奴も多いんだから、話半分、警戒心90%で行かなきゃ駄目だぞ」
言葉に説得力あり過ぎて、隣りに居る和磨をマジマジと見てしまう。
「何だよ?」
「ううん。な、何でもない。うわっ」
急に和磨が私の腰を掴み引き寄せた。
な、何?
あまりにも近すぎる、和磨の顔。
「ほら。警戒しなさ過ぎ」
「……」
どうしよう。急に引き寄せられて、しかもこんなに近い和磨の顔。和磨の息が私の顔に掛かり、どうしていいかわからず上手く呼吸が出来ない。心臓がドキドキしてるよ。離れなきゃ、和磨から……。しかし、離れようとしたが、強い力が働いて身動きが取れない。私の身体を押さえているこの力は……和磨……だよね?和磨をジッと見たが、和磨はそれでも視線を外さない。
「キス……しようか?」
「えっ?」
月明かりだけでは和磨の瞳がよく見えない。和磨の言葉に見えないフリをしているのか。でもここでビビッていたら、和磨の方が年下なのに馬鹿にされそうで嫌だ。
「い、いいよ」
和磨の左手が私の後頭部に触れたと同時に、和磨の唇がそっと私の唇に触れると、すぐに離れ、和磨の身体も離れていき、また元のように並んで防波堤に座っていた。
今……本当に和磨にキスされた?勢いで和磨とキスしてしまった。自分からOKしておきながら、現実を受け入れるのに時間が掛かり、ましてや思い出しただけでも恥ずかしくて和磨の顔をまともに見られず、呆然と前を向いた状態のまま焦点も定まらず、潮騒の音だけが先ほどと変わらないまま聞こえてくる。口をパクパク動かしながら何か言わなきゃいけないのに、上手く言葉が出て来ない。
和磨とキスしてしまった。
何だかいけない事をしたみたいで、罪悪感に襲われている。弟の友達とこんな事して……。私は、いったい何をしているんだろう。何か話さなきゃ……そうだ。
「和磨は、何で教師になりたかったの?」
「俺?」
いきなり突飛な話題を振ったので、和磨が私の方を見て聞き返しているのが視界に入っている。でも恥ずかしくて、まだ顔を合わせられない。
「うん」
心とは裏腹に、平静を装うように海に向かって明るく返事をしている自分が、何とも滑稽に感じられる。
「教師って、サンダルで仕事出来るから」
はあ?
思わず隣りの和磨の顔を見てしまい、目が会った途端、心臓がドキッとなる。
「サンダルって」
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