雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
創介さんは、深夜遅くに帰って行った。
「父ときちんと向きあって来る。何があっても俺の思いを訴え続ける。まずは、俺自身を見てもらうことで納得させたい」
私にはっきりとそう告げた。
「今月のおまえの誕生日、あけておいてほしい」
「誕生日?」
「本当は昨日おまえに会って、話をするつもりだった。あ……」
創介さんの鋭い目が私をじろりと見る。
「バイトのシフト、急に変わったと言うのも嘘だな?」
「……すみません」
返す言葉もなくて俯くと、優しく抱き寄せられた。
「いや。俺のせいでバイトまでやめたんだよな。悪かった」
頭を撫でられながら、近くなった声が耳に届く。
「誕生日はあけておいてくれ。絶対に雪野に会いたい」
「分かりました」
創介さんが安心したように私の肩をぽんぽんと叩いた。
創介さんを見送った後、自分の部屋に戻った。
本当に創介さんは意地悪だ。この部屋に創介さんがいて、そしてこのベッドで抱きしめられて。嫌でも思い出してしまう。
どれだけ身体を重ねても、いつも現実味のない恋だった。実体がなくて夢の中にいるようで。
でもこの日、私の現実があるこの部屋に創介さんがいて、そして、私を大切なものを扱うように抱きしめてくれた。
創介さんとの関係が、初めて現実のものなんだと思えた。
ベッドにそろりと入る。窓から見える空はまだ真っ暗だ。
一人で横たわるだけなのに、勝手に心臓の動きが早くなる。いくら目を閉じても眠気なんてやって来なかった。結局どれだけ眠りにつこうとしてもそうできなくて、諦めて起きていることにする。
創介さんと出会って。最初は抗って、それでも何故だか抗えなくて。心はどうしようもなく惹かれていった。
二人で過ごす時間の中で、創介さんの中に隠し持つものを知るようになった。弱さも、苦悩も、そして、不器用な温かさも。
結局、最後まで抗えなかった。ずっと消えなかったこの想いがすべてだ。
これから先、この想いに、正直に誠実に、逃げずに向き合って行く。それが、私の新たな覚悟になった。
この先待ち受けるものを乗り越え、そして、誰かを傷付けてもこの想いを貫くには、それしかない。