雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
4 この恋の終わりに残るもの


”今週の土曜日、会えないか?”

創介さんからメールが届いたのは、倉内さんに会った二日後のことだった。

『もう創介さんとは会いません』

そう倉内さんに告げたのだ。会えば、その約束を破ることになる。

別れ際、手渡されたお金。それは手切れ金を意味していた。必ず約束を守ると言う誓約だ。
今後、自分の決心が揺らいだりしないようにと敢えてそのお金を受け取った。

あのホテルのバンケットルームで見た女性の顔がちらつく。その後にはすぐに創介さんの顔が浮かぶ。

『創介さんは、あなたとの関係を終わらせるつもりはないようです』

そう言った倉内さんの言葉を思い出す。

ここ最近の創介さんの様子を振り返れば、いろんな場面が繋がっていく。

いつもどこか疲れていて、苦しそうだった。

ちょうど縁談が持ち上がった頃なのかも知れない。私を簡単に切り捨てることもできないで、苦悩していたのか。

倉内さんがわざわざ私に会いに来た理由は、きっとそこにある。

『その時が来たら――。自分の立場も引き際もわきまえているつもりです』

木村さんにそう告げた、三年前の決意。
それは、この恋を続けてきた自分との約束であり唯一のプライドだった。

『……雪野』

どこからともなく聞こえて来る、低くて甘い声。私の醜い欲望が暴れ出す。

どれだけ耳を塞いでも、創介さんに会いたいと身体中が叫ぶ。

一度だけでいい。最後になんでもない時間を創介さんと過ごしたい。

その日を最後に終わらせるから。ちゃんと創介さんから離れるから、だから、許して――。

名前も知らないあの綺麗な女性に、心の中でそう言っていた。

三年という日々を終わらせるため、あと一日だけ許して欲しい。


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