アンコール マリアージュ
やがてエレベーターホールまで来ると、真は真菜にどうぞと促し、一緒に乗り込んで最上階まで来た。

廊下を歩きながら、ふと真を見上げる。

「そう言えば、今更ですけど、何の用事で呼ばれたんですか?私」
「ん?ああ。社長が真菜に話があるんだってさ」
「そうですか、社長が。って、えっ?社長?!」

ビタンと真菜は、廊下の壁に張り付いた。

「ほら。着いたぞ」

そんな真菜には目もくれず、真は、突き当りの部屋をノックする。

「ちょちょちょ、ちょっと待って!真さん」

慌てて真の腕を掴んだ時、ドアが中からカチャリと開いて、落ち着いた雰囲気の綺麗な女性が現れた。

「齊藤 真菜さんをお連れしました」

そう言う真ににっこり笑いかけ、どうぞと中へ招き入れる。

どうやらそこは応接室らしかった。

「今、社長を呼んで参ります。そちらのソファにお掛けになっていて下さい」
「はい。ほら、真菜も来い」
「ははは、はい」

真に続いて歩き出すと、ふと振り返った真が、可笑しそうに笑い出す。

「真菜、右手と右足が一緒に出てるぞ」
「え?右手と右足が一緒にって、こう?」
「そう。いやだから、そうじゃなくて!それだと変だぞって。普通に歩けよ」
「普通?普通に歩いてるけど…」
「それが普通?めっちゃ変だぞ」
「え、普通って何?私の普通はこれだけど?」
「嘘だろ!そんな訳…」

その時、後ろから、ゴホンと咳払いが聞こえてきた。

振り返ると、50代位のダンディーな男の人が立っている。

「あー、お邪魔かな?」

そう言って、にっこり真菜と真を見比べる。

(はっ!この方確か、うちの社長!)

真菜は慌てて頭を下げた。
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