アンコール マリアージュ
「じゃあ、真菜さんがウェディングプランナーを目指したのは、結婚式に憧れてたから?」
「はい。子どもの頃からお姫様ごっこが好きで、結婚式にも人一倍憧れが強かったんです。自分の時は、どんなドレスでどんな髪型にしようかなー、とか、式場はどこがいいかな?どんな式にしようかなって」
「なるほどねー」

真菜の話を聞きながら、菊池はパソコンをカタカタと打ち込んでいく。

「では、数あるウェディング会社の中から、このアニヴェルセル・エトワールを就職先に選んだのはなぜ?」
「はい。他の式場では、例えばプランナーは打ち合わせだけ、ドレス選びは衣裳係に、当日のサポートは介添えに任せるって所が多かったんです。でもここは、新郎新婦のお二人を、初めましての時から、挙式後におめでとうございましたとお見送りするまで、ずっと担当させてもらえます。私、せっかく担当させてもらえたお客様は、挙式と披露宴までずっと関わらせてもらいたくて、当日もお二人のそばでお手伝いしたくて。だからここで働こうと思いました」
「なるほど。それであんなにも、今日の新郎新婦とも打ち解けていたのね。私、もらい泣きしちゃいましたよ。さっきの披露宴」

す、すみません、と真菜は気まずくなってうつむく。

「いいえ、本当に素敵でしたよ。では続いて専務の齊藤さんにもお話聞かせてもらえますか?御社では、現場のスタッフをどの様に指導されているのですか?こちらのスタッフの方は、皆様、とても優れていらっしゃるとお見受けしましたが」
「いえ、弊社では、本社の人間が現場のスタッフを直接指導する事はありません。マニュアルや決まりなども一切なく、全て現場に任せています」

真が、淡々と話し出す。

「へえー、それは驚きました。でもなぜですか?スタッフの質、と言っては失礼ですが、接客態度など、きちんと出来ているか気になりませんか?」
「お客様のことを1番良く分かっているのは、現場にいるスタッフです。本社の人間は、お客様と接する機会もほとんどなく、挙式や披露宴でも、細部まで気が回りません。おかしな話、本社の役員達がお客様を担当しても、挙式や披露宴を滞りなく執り行う事は出来ないでしょう。私は現場のスタッフ1人1人を信頼し、そして尊敬しています。彼らはそれぞれのプロとして仕事をこなしてくれており、お客様から感謝のお言葉を頂く事も多いです」

菊池は大きく頷く。

「それは、今日1日拝見していて私も良く分かりました。こちらのスタッフの方々は、誰かに指示される事は全くなく、いつも自ら進んで行動されていました。そして連携も素晴らしい。きっとお互いを信頼し合っているからなのでしょうね」
「ありがとうございます」
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