アンコール マリアージュ
「真、お前、うちの会社に来るか?」

ひとしきり雑談をしたあと、やがて父親がひと言そう言い、真は、えっ?と顔を上げた。

真菜も、そんな真の横顔を見つめる。

「お前、本当は院を卒業後、うちの会社に来るつもりだったんだろう?もちろん私もそのつもりだった。だがな、あの時、うちの社は、何て言うか、派閥争いが激しくてな」
「…派閥?」
「ああ。齊藤の血縁者だけで会社を組織するのに反発されてな。もちろん、私もその気持ちは分かるし、そもそも血縁者だけを役員にするつもりもない。だが、彼らの言い分を聞いていたら、単なる自分の保身の為としか思えなかった。会長の親父とも話し、時間をかけて分かってもらおうという事になったんだ。だが、そこに、大学院を卒業したばかりのお前を放り込む訳にもいかない。標的にされるからな。それで、昇の所に行かせたんだよ」

知らなかった…と、真は小さく呟く。

「話したくても、お前はあの時まともに口をきいてくれなかったからな。ずっとお前のことを心配していた。だが、聞いたぞ?昇から。お前と真菜さんのおかげで、アニヴェルセル・エトワールは、飛躍的に業績を伸ばしたそうじゃないか。真菜さんとお前の結婚を、万が一にも反対しようものなら、親戚としても会社としても大損害だと言われたよ」

そう言って嬉しそうに笑う。

「もちろん、反対なんてする訳がない。こんなに喜ばしい事はないよ。それにもう、うちのプルミエール・エトワールも落ち着いた。どうだ?お前もこっちに来るか?」

真はじっと手元を見つめて考える。
そして顔を上げると、はっきりと答えた。

「いいえ、私はこれからもアニヴェルセル・エトワールにいます。我が社は素晴らしい会社です。日々感動と感謝に触れ、私自身も多くの事を学ばせてもらっています。そして、この仕事の素晴らしさを誰よりも私に教えてくれたのが、真菜です」

そう言って隣の真菜に微笑む。

「私はこれからも、この仕事に誇りを持ち、彼女に感謝しながらこの会社をより良いものにしていきたいと思っています」

母親が目頭を押さえながら、何度も頷いている。

「そうか、分かった。お前は私達の知らない間に、随分しっかりと成長したんだな。これも真菜さんのおかげだ。本当にありがとう。これからも、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」

そして真菜は、真と顔を見合わせて笑顔で頷いた。
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