アンコール マリアージュ
 恋人にプロポーズしようとした男性が、彼女のもとへと向かう途中、野に咲く花を1本1本集めて花束にし、プロポーズしながら差し出した。
 花束を受け取った女性は、そこから1輪の花を抜くと、イエスの返事と共に男性の胸元にその花を挿した、というのがブーケとブートニアの始まりだと言われている。

 「へー、なんかロマンチックですね」

 笑顔でそう言った新郎が、知ってた?と隣の新婦に聞くと、彼女はうつむいたまま黙って首を振る。

 新郎は、また真菜に向き直った。

 「それで、それをセレモニーにするんですか?」
 「はい。まず初めに、列席の皆様にお花を1輪ずつお渡ししておきます。そこに新郎様が、1人1人皆様からお花を受け取りながら入場されます。全て受け取ると、それをリボンで結んでブーケにします。その後に入場された新婦様にプロポーズしながらそのブーケを差し出し、新婦様は、プロポーズのお返事と共にブーケの中からブートニアを取って新郎様の胸元に飾る、という流れです」

 新郎は、頷きながら熱心に真菜の言葉に耳を傾けている。

 「列席の方には、あらかじめセレモニーの意味合いを説明しておきますので、ただ式を見届けるだけではなく、自分も参加している、というようなお気持ちで楽しんでいただけると思います。お花を新郎様に渡しながら、おめでとう!お幸せに!など、直接お言葉をかけられたり、アットホームな雰囲気で皆様笑顔になられますよ」
 「いいなー、それ。そもそも俺、キリスト教徒じゃないし、なんかこう、堅苦しくて、緊張して失敗したらどうしようって思って、式のことを考えると気が重かったんですよね。でもこれなら良さそうだなあ」

 にこにこと嬉しそうに話してくる新郎に微笑み返しながら、真菜は新婦の様子が気になっていた。

 (ずっと黙ってうつむいてらっしゃるけど、大丈夫かしら…)

 「では、早速ガーデンとチャペルをご案内致しましょうか?そのあとにドレスもご案内させていただければと思いますが、新婦様いかがでしょう?」
 「え、私ですか?はい、それでいいです」

 新婦は、真菜の問いに小さく答えて頷く。

 「かしこまりました。ではご案内いたしますね」

 真菜が立ち上がると、他の3人も立ち上がり、皆でサロンを出た。
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