アンコール マリアージュ
 「え?ご結婚されてるんじゃなかったんですか?」

 驚く美佳に、梓はふふっと笑う。

 「そうなのよー、まだ独身なの。この指輪は勤務中だけはめてるのよ」
 「それは一体、何のために?」

 まだ納得いかない様子の美佳に、久保が説明する。

 「梓は美人だからねー。接客中に新郎様が梓に見とれちゃったりするのよ。で、新婦様がヤキモチ焼いちゃって…。その場でケンカが始まった事も1度や2度じゃなくてね」
 「なるほど!結婚していると思わせられれば、あらぬヤキモチを焼かれる事もなくなるって訳ですね」
 「そういう事。この業界では、結構フェイクリングしてる人多いわよ。女性だけでなく、男性のプランナーでもね」

 へえーと、美佳はしきりに感心している。

 「だからさ、真菜もそろそろはめたら?」

 真菜は、ブンブンと梓に首を振る。

 「そんな必要ありませんって!私は梓先輩みたいに、モテたりしませんから。上村様だって、絶対私にヤキモチなんて焼いてません。それに…」

 そこまで言って言葉を止めた真菜に、梓はニヤッと笑う。
< 38 / 234 >

この作品をシェア

pagetop