振れないフレーバー
友人に連れられ話題の恋愛映画を見に行った

エンドロールが流れ2時間半程の苦痛から解放されると安堵した

全く感動しなかった

恋人と些細なことですれ違いまたお互いの大切さを知り復縁する
なんて在り来たりにも程がある映画だった

友人は

良かったな、泣けたな なんて

薄っぺらい感想を口にしそれと同時にほぼ同じことを携帯アプリで呟いている
わざわざ公式のハッシュタグなんかつけて
不特定多数からのいいねを貰い満足するんだろう、安っぽい人間だ

俺も そうだね、あれは泣けるね なんて
話を合わせほぼ手付かずだったポップコーンに手を伸ばした

あぁこの味アイツ好きだったよな
塩やキャラメルなんかではなくフレーバー

映画が始まる前にポップコーンが入った袋の中に粉を入れ
やたらと音が響く映画館の中で何度も何度も振らないといけないやつ
自分の話し声は気にしてないくせに人が少し変わった音を出すと他人は見てくる
そんなこんなでフレーバーのものを頼むアイツはちょっと嫌だった

それなのに俺は迷いもせずこれを注文していた
指定されたシアターに入ると既に予告が始まっていた
俺は今更後悔をしフレーバーを混ぜることを諦め
何の味もしないただの膨らんだ物体を
睡魔に負けそうになると口に運んだ

きっとアイツなら予告で少し大きめの音が鳴った時に
急いで粉を入れ振っていたんだろう
少し長く振りすぎてしまい冷たい視線を向けられてもいただろう
でもきっと少し口角を上げ

注目されちゃった なんて

馬鹿げたことを言ったんだろう

そんなことを考えていると友人の携帯に着信が入った

悪い、ちょっと用事できたわ、またな と

きっとあの口角の緩み具合からして女関係
先程の映画なんて1ミリも記憶に残らないんだろう
少し映画監督を同情した
役者やカメラマン、諸々にも

きっとアイツなら映画の興奮冷めぬまま少しボリュームの上がった声で
感想をツラツラと俺に話し足早にグッズ売り場へ向かいパンフレットを買うだろう
パンフレットの1番最後のページにはアイツと俺の2枚の映画の半券を丁寧に貼り
何度も何度も読み返し本棚に戻すんだろう

それで極め付けには

今日は○○記念日だね と
映画のタイトルを名付けた記念日を俺との間に設けるだろう、安っぽくて好きだった


いつものように映画を見に行き
感想を語り合いながらファミレスで晩飯を食べる
毎度変わらず一番安いドリアを頼んでいた
終電まで時間を潰し店を出てすぐの信号で じゃあ と


そんなアイツの現在の行方を俺は知らない


きっとこんな古臭くて誰も介入したがらない物語も
CMなどに引っ張りだこのあの俳優さえ起用すれば
一躍有名になるんだろう

捻くれた性格は一向に良くなりそうにない
二人で食べたあのドリアはもうすぐ値上げをすると言うのに
時間だけが進んで俺は世界に取り残されてしまっていた




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