38年前に別れた君に伝えたいこと
「奥さんや子供は幸せだったね、
でも男の醍醐味は、呑む・打つ・買うでしょ、圭くんはお酒は飲むけどギャンブルも女遊びもやらない、そのお酒にしたって家飲みで奥さんと一緒になんて世の中の夫婦は憧れるよ。
私はお酒が飲めないから、いつも主人一人でたらふく飲んでたわ、私はキッチンで酒の肴を作る係だった」
「これでも若い時は同僚や友達と毎週のように飲み歩いてたよ、家庭を持てば付き合いが悪くなるのは当然さ」
それに、、
「妻も結婚した当初は飲めなかったよ」
「えっ、それが飲めるようになったの?」
「飲まなかったって言う方が正しいかな、体質的に酒が無理な人は頑張りようがないけど、歳をとれば変わる事もあるし、酒は飲むほどに強くなる。今思えばきっと妻はもともと飲めるのに経済的理由からなのか、それ程好きでもなかったのか遠慮してたんじゃないかな」
いつぐらいからだったか、妻は一緒に酒を飲むようになった。
「ふーん、じゃあ私も圭くんと一緒に飲んでみようかな、でもビールは苦くて全然美味しくないんだよね」
「はははっ、子供と一緒でビールを初めて飲んで美味しいと言う人はいないよ。次第に苦味に舌が慣れて気がつけばキンキンに冷えたビールが極上の一杯に変わるんだ、
不味く感じているうちはまだ舌が慣れてないんだ」
「さすが酒呑みの言葉には説得力があるね」
「僕は確かに酒が好きだけど、飲んで性格が変わる事もなければ飲み過ぎる事もない、だから人に迷惑をかけることもなかったさ。
その最高のツマミは妻のお喋りだったんだ。
ほろ酔いの気分で聞く妻の話は僕を飽きさせない」
「でも、半分はテレビを見てたんでしょ」
「照れ隠しだよ、本当は身振り手振りで嬉しそうに話す妻をずっと見ていたかったんだ、、」
気づけば彼女の目が潤んでいる、
顔を上に向けて滴が溢れるのを隠そうとしていた。
「あーー、なんかいいなー、
想像しちゃったじゃない、
夫は家族のためにがむしゃらに働いて、家に帰れば優しい奥さんが今度は夫のために最高のお酒とお喋りで労う。
私もそんな家庭を築けたら良かったのに、、
私には無理か、、口下手だし圭くんの奥さんのようにはなれない。
たとえ圭くんと一緒になっていても圭くんは幸せじゃなかったかもしれない、、」