38年前に別れた君に伝えたいこと

「あの恋と愛の話は、
 本当にお母さんが言ったの?」

「うん、あの話は覚えてる。でも圭くんには一度も愛してるって言われた事はないわ」

「確かにあんな話をしたら、君嶋さんも言うタイミングが難しいよね」

「それもあるかもしれないけど、あの時代は一つ一つの言葉の重みが違うから、今みたいに愛の言葉を容易く口にしなかった、 "愛してる"の言葉は、特に希少でなかなか手に入らなかったの。

あの頃は、ゆっくりと時が流れていた。
手紙でのやりとりなら数日かかる時もあったから今ならスマホがあれば、電話やメール、写真だって撮ったらその場で直ぐ見れちゃう。
有り難みがないよね。

時間をかけるから、言葉にしても物にしても最高のものを選んで相手に渡す事ができる。
美咲、メールの返事が遅い子は一生懸命言葉を選んでいるからかもしれないよ」

「そうかもね、、ねぇお母さん?
 お母さんは、もう君嶋さんの事は何とも思ってないの?」

「、、今日までは、、取り立てて意識した事はなかったわ」

「今日まで?」

「違う、、あの本を読むまでかな」

「じゃあ、今は?」


「あの本を読んで、、
あの頃の事をみんな思い出しちゃったの、手を繋いだ時のぬくもりや、抱きしめられた時の彼の胸の鼓動や、そしてキスされた時の気絶しそうな感動も、、だから、今また彼が大好きになっちゃった。
小説に書いてあった通り、『私はやっぱり圭くんが大好き!!』って叫び
たいくらい」 

「お母さん、そんなのお父さん聞いたら泣いちゃうよ」

「いいの、もうこの世に居ない人だから、、
 恋敵にもならないよね、、」

「お母さん、、」

誰かにこの気持ちを話さなければ、胸がはち切れそうだった、美咲に話せて心が少し軽くなった気がする。
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