38年前に別れた君に伝えたいこと

5.伝えたかったこと


彼女は姿勢を正して話を続ける。

「高瀬さん、私は一度だけ、
 貴女の話を彼の口から聞いた事があるの」

「私の話をですか?」

意外だった、
普通、奥さんに元カノの話なんてするだろうか。

「もう30年以上も昔、まだ子供はいなかったから結婚して2、3年経ったぐらいかな。彼は仕事から帰ると、いつもお喋りな私の話を半分、テレビを半分見ながら晩酌をするのが日課だった。
その日は、彼にしては珍しく恋愛ドラマを見ていたんだけど、彼が突然、
『僕なら、どちらの女性も選ばないな』って

私は、自分のお喋りに夢中でテレビは見てなかったから、ドラマの内容を彼に訊ねたの。

『同時に2人の女性を好きになってしまって、どちらを選ぶかって話さ。どちらを選んでも、選ばれなかった女性は、悲しみのドン底に突き落とされる。だから僕にはどちらも選ぶ事ができない』

彼はそういう人だった、自分の事よりいつも弱い立場に置かれた人のことを一番に考えて応援していた。

『もし、私がその内の1人だったら、圭ちゃんは私を選んでくれないの?』って聞くと、

彼はしばらく考えてから、
『そりゃ麻由ちゃんを選んであげたいけど、僕は、もう1人の女性の事を先に考えてしまうんだ。
だから、その状況にならないとわからないよ』

予想外の返答に戸惑った、
どんな状況でも、私を一番に選んでくれると思っていたから、、
もし、この先私と同じくらい好きな人が現れたら彼はどうするだろうか。

不安になった私は、
『圭ちゃんは、今まで、私以外に幸せにしてあげたいと思う人はいた?』
って聞いてみたの。

すると彼は、
『いたさ、麻由ちゃんと出会う前、高校の時に付き合ってた彼女だよ。僕は彼女が好きで好きで、いつまでもずっと一緒にいたいと思ってた。
別れてからも、何度ももう一度やり直したいと思ったんだ』って」

私じゃない、、河崎さんだ、、
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