38年前に別れた君に伝えたいこと

scene.10


娘が待つ駐車場の近くまで来た時、
ふとズボンのポケットに手をやって気づいた、

しまった携帯を忘れた、ベンチの上だ。
無くしたらまた娘に叱られる。

慌てて、来た道を戻ると


奏楽堂の手前にしゃがみ込む女性の姿が目に入った、



思わず天を仰いだ、

間違いない、彼女だ、、

「美幸ちゃん!」


僕の声に驚いて振り返る彼女は、
信じられないものを見た顔で、また両手で顔を隠してしまった。

近くに寄って、泣きじゃくる彼女の肩をそっと抱き寄せた。

「大丈夫だから、離さないから、、」




もう




言葉はいらない




互いの気持ちは痛いほど分かる




ただ強く抱きしめて、彼女が泣き止むのを待とう




心配になって迎えに来たのだろうか、
遠くに娘の姿が見えた、

僕らの再会を目の当たりにして、
娘も泣いているのが、遠目にも分かった。



ベンチの上の携帯を拾い上げて、

「これのお陰で君と再会できた、もし携帯を忘れてなければ此処に戻る事はなかったんだ」

「し、信じられない、、もう会えないと思った、二度と会えないかも知れないって」

彼女は、僕の瞳を真っ直ぐに見上げて、

「圭くん、もう私には何もないから、、あなたについて行っていいの?」


「勿論さ、6年も君を待ってたんだから、君が嫌だと言っても連れて帰るよ」


もう一度、強く抱きしめて、
僕は46年間彼女に言えなかった言葉を口にした。

「美幸ちゃん、愛してる」


「圭くん、、最高のタイミングだよ、、」


「長いこと待たせちゃったね、行こっか」

「、、うん」
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