再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
買い物を分担し、食材は私と紗衣ちゃんで、飲み物は男性陣で用意してもらい、夏目さんは場所の提供となった。
私と紗衣ちゃんが駅で待っていると加藤くんと橋口くんが時間通りに現れた。手にはアルコールやソフトドリンクでいっぱいだったが、私たちの荷物を持ってくれようとする。

「大丈夫だよ。そっちの方が重たいでしょう?」

「俺たち鍛えてるからこのくらい大丈夫だよ」

そう言うとふたりとも私たちの買い物袋を取り上げた。
確かに彼らは消防にいるため救急隊員とはいえ体を鍛えているのだろう。洋服の上からでもわかる筋肉に彼らの努力がうかがえる。

「凄いですね」

小さな声でさやちゃんが耳打ちしてきたので私も小さく頷いた。

駅から歩いて15分くらいだろうか。
白と黒のモノトーンなマンションが見えてきた。

「ここの3階です」

彼らは何度か来たことがあるらしく、慣れた様子でマンションのエントランスを入って行った。

ピンポン。
インターホンを鳴らすとすぐに夏目さんが玄関を開けて出てきた。

「いらっしゃい」

案内され部屋へ入ると、ファミリー向けなのか一人暮らしには少し広く感じた。
彼は誰かとそういう関係を見越して広い所に住んでいるのだろうか。
ついキョロキョロとしてしまうと夏目さんが笑っていた。

「何にもないだろう? 一人暮らしだから殺風景なもんだよ」

「あ、ごめんなさい。つい……」

「見られて困るものはないから見ていいよ」

そう言って笑っていたら、横から橋口くんが口を出してきた。

「そうそう。夏目さんは女っ気もないし、小洒落たものもないから見てもつまらないもんですよ」

女っ気がないって……そんなふうには見えない。
でもその言葉を聞いてホッとしたような、嬉しいような、なんとも言えない気持ちになった。でも今の気持ちに名前はつけられなかった。

「材料切り始めましょうか」

紗衣ちゃんの声にハッとした。
ファミリー向けのキッチンは私の部屋とは比べ物にならないくらい広い。
紗衣ちゃんと私、夏目さんで材料をきり始める。
彼らは当直の勤務中みんなで食事を作り集団生活しているため包丁を握る手が慣れている。
トントントンと小気味いい音が彼のまな板から聞こえてきた。
橋口さんたちは慣れた様子で食器棚から食器やカセットコンロを取り出し始める。けれどそれもすぐに終わってしまうと、ふたりは買ってきた飲み物を冷蔵庫にしまいつつ缶のプルタブを開けた。

「おい!」

「すいません。待てなくて……」

頭をかきながらもふたりは悪びれもせずにゴクゴクとビールを飲み始めた。
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