ベッドの上であたためて
「家、月島なんだっけ?」
「はい」
「ここから何線で帰るの?乗り換えもあるかな」
「んー、何線でしょうね。メトロ?都営線?」
「…もしかして嘘ついてた?」
「嘘でも本当でも、別にいいでしょう?」
「なんか急に冷たくない?」
「元々やさしくしてたつもりはないです」

スカートを履きながら言うと、後ろで彼が黙り込んだ。
新しいストッキングの袋と型紙をベッド脇のゴミ箱に放り込む。
使うメーカーはいつも同じ。
これが一番履きやすく肌に馴染む。
ただ『伝線しにくい』という謳い文句には疑問が残るな、と今まさに思っている。

シーツの擦れる音が鳴り、後ろからシャツの腕が私を抱きしめた。

「ねえ、本当はどこに住んでるの?また会おうよ」

子どもが駄々をこねるような口調に、ため息が漏れた。
その左手の薬指はしっかり眩い光を放っているのに、よくそんなことが言えたものだ。

男は愛がなくても簡単に寝る生き物。
情事のたびにそんなことを確認しては、気持ちが荒んでいく。
馬鹿みたい。私だってこの人や他の男たちと同じ、『愛がなくても簡単に寝る女』だ。

やんわりとその腕をはずし、振り返る。
あからさまに嘘くさい笑みを作って。

「一度寝た男とはもう寝ないんです」

ぽかんとする彼の目は、もうさっきまでのようにとろんとしていない。

「清純そうに見えて、案外過激なんだねえ」

ここまで来て、こんなことをしておいて今さら?
面白い人だな。

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