人間オークション       ~100億の絆~
麗亜さんのお腹がずいぶん大きくなるころには咲月さんが麗亜さんの隣に立つようになっていた。なにがどうなってそうなったのかはよく分からないけど、とりあえず赤ちゃんは産む予定みたいで、今日は大切な発表があるらしい。

「麗亜、そろそろ階段をのぼるのはきついだろ。今日から1階で生活するようにしろ。それでいいよな、且功。」
「それは全然かまわないが発表ってなんの発表なんだ?もったいぶらずに早く教えろ。」

「生まれてくる赤ちゃんの名前よ。」
「もう性別がわかったですか!?」

「いいえ、まだそこまではわからないの。恥ずかしがり屋さんみたいで。でもね、この子が男の子だとしても、女の子だとしてもつけたい名前があるの。咲月と話したら、すぐに決まったわ。お互いに同じことを考えていたみたい。」

「どんな名前ですか?やっぱり咲月さんと麗亜さんの名前から1文字ずつとるとかですか?」


「それも考えたけど、私たちみたいに性格が悪かったり意地悪になると困るからやめたわ。それにね、この子には目標としてほしい人がいるの。だからその人から名前をもらった。紹介するわ、この子の名前は『みこと』よ。」

「みこと…?私と同じ名前…?」
「ええ、そうよ。あなたのように素敵な子になってほしいからあなたの名前をもらったの。」

「だ、ダメですよ!私みたいに1人ぼっちになっちゃうかもですし、おバカになっちゃいます!」

「この子にも命(いのち)ある限り頑張れるような子になってほしいの。でもね、もう1つ大切なことがあるの。これはね、お腹の子だけじゃなくて、命(みこと)にも伝えたいこと。命(いのち)ある限り生きること。それはとても美しくて素敵なこと。だけどね、命(いのち)があるからって無理をしなくてもいいのよ。泣きたいときは泣いて、笑いたいときはたくさん笑って、生きること全てに幸せを感じて、命(いのち)ある限り人生を楽しんでほしいの。そう、願ってこの名前にしたの。」


「と言ってもまだ漢字は決めてないけどね。さすがにそこは性別が分かってからの方がいいだろうし。」


「なんだか私、恥ずかしくなってきたですよ……。」

「ねえ、且功さんはどう思うかしら?」
「いい名前だと思うぞ。他にふさわしい名前はない。」


産まれてくる赤ちゃんの名前が『みこと』。私と同じ『みこと』。私を目標として2人がつけてくれる名前。


「とりあえず、入籍はすぐにする予定だ。」


「2人はこの家を出て行っちゃうですか?」

「いいえ、ここであなたたちと一緒に暮らすつもりよ。もちろん、且功さんが良ければだけど。」

「その生まれてくる『みこと』が僕のことをオジサンだなんて言ったらすぐに追い出すぞ。」

「ねえ、命(みこと)。約束よ。私たちはずっと傍にいる。何があっても。命(いのち)ある限りね。」
< 110 / 113 >

この作品をシェア

pagetop