人間オークション       ~100億の絆~
「本当に来るのかな…如月さん。」

咲月さんに如月さんとのことを伝えたらいい考えがあると言って“ある部屋”に連れてこられた。咲月さんが言うにはこの部屋は唯一如月さんが入りたがらない部屋だという。咲月さんは、如月さんが絶対に来ると言っていたけど……



「なんかこの部屋布団が豪華だな……。」


如月さんの部屋のベッドも十分綺麗でフカフカしていたけどこの部屋のベッドはそれ以上のものに感じた。


如月さんよりもいい部屋を持つ人………それって如月さんのお父さんかお母さん……?



『且功様は本当は————』



あの時の咲月さんの言葉は何だったんだろう。でも、もしかしてそれが如月さんが触れられたくない話だったとしたら…それは私が知ってもいいことなのかな……?

「おい、命(みこと)!この部屋か!?」



扉の向こうから聞こえたのは間違えるはずのない如月さんの声。入りたがらない部屋なのになんで来たの……?




まさか私のため…?だとしたら何で……?




「今回お前に言ったお仕置きは取り消す。だから出てこい。」

「だったら、この部屋に入って。」
「な……」


咲月さんから言われた唯一の命令。もし万が一如月さんがお仕置きを取り消したり私に出てこいと言ったとしても決して私から部屋を出るなと言われた。



「ふざけるな!何でこの部屋にお前が……。」
「この部屋に来れば分かるって言ってたから。」



咲月さんは言っていた。この部屋を何故如月さんが嫌うのか。何故怖がるのかが分かる。



でもそれが咲月さんが言っていたことなのだとしたら、如月さんを傷つけていいのかな。



「僕は……この部屋には入れない…。」
「私…咲月さんに出るなって言われた、この部屋から。それってどういう意味なのかな……?」


「お前が知る必要のないことだ。」
「でも咲月さんは私は知っておくべきだって言ってたよ。」

「まさか咲月から聞いたのか……この部屋のこと。僕の生まれのことを。」
「全部ってわけじゃない。ただ少しだけ。」

「咲月が言ったことなんか信じるな!お前は僕の言葉だけ聞いてればいい。僕の命令だけ聞けばいい!」

「何を信じればいいの…?都合のいい玩具としてこの先もここで生きろってこと…?私は自分を持つことなく生きて行けってこと…?」



「そうだ。お前は僕の玩具なんだから。」


「そう……分かった。それが私に対する如月さんの全てなんだね。私ね、咲月さんにこの屋敷を出ないかって言われたの。咲月さんが何を思ってそんなこと言ったのかなんて分からない。だけどさ、馬鹿な私にでも分かるよ。咲月さんの手を取れば私は玩具としてじゃなくて私として生きる人生が選べる。」

「嫌だ……そんなの嫌だ!お前は僕のものだ。僕だけの……。」

「そうやって、ずっと生きていくの…?自分は…自分が生まれたことは間違いなんかじゃない。自分が言うことは絶対だ。絶対に間違ってなんかないって……。」


「咲月に何を吹き込まれたのか知らないが僕はそうやって今まで生きてきたんだ。変えろって言うのか……?」


「違うよ。別に変えろなんて言わない。ただ、思い出してほしいだけ。本当に今の生き方が如月さんの人生だったの……?咲月さんに優しくしたことは間違いだったの……?」

「は……?」


「咲月さんは教えてくれた。自分の家が堕ちた貴族だって。辛くて辛くて憎しみしかなかったって。でもそれを救ってくれたのは如月さんだったって……。」

「それがこの部屋に閉じ籠ることと何が関係あるんだ!?」


「如月さんに…思い出してほしいの。優しかった如月さんがいたこと。咲月さんにしたことが同情だったのだとしても忘れてほしくない。いつまでも……妾の跡継ぎなんて囚われないで!」
< 34 / 113 >

この作品をシェア

pagetop