人間オークション       ~100億の絆~
且功が麗亜さんのところに行ってからずっと麗華さんと話している。本当の母親だと思ってしまいそうになるくらい私のことを可愛いと言ってくれる。

「命(みこと)ちゃんは如月さんの家に住んでるのよね?」
「はい!」

「失礼だけど命(みこと)ちゃんのご両親は?」
「私が10歳の時に死んじゃいました。でも、その後はユリばあちゃんっていう素敵なおばあちゃんの庭を借りて野外生活してて……。」
「その後何かがあって如月さんの家に住むようになったのね。そんなに若いのに苦労が多くて大変ね。抱きしめてもいいかしら?」
「え……?」


麗華さんが私に近づいてきたときなぜか私の体がそれを嫌がった。ただ抱きしめられるだけなのになんで……?


「怖がらせちゃったかしら?ただ私は抱きしめたいの。可愛くて一生懸命生きてきた命(みこと)ちゃんを。」


なんだろう。急に背筋に寒気が走るような感覚。今までに感じたことの無い恐怖。

「命(みこと)ちゃんって華奢で細いのね……こんなに小さな体で一人で生きてきたなんて大変だったわね。」
「い、いえ……。」

「本当に守ってあげたくなっちゃうわ。これからは私のことを母親だと思ってね。」
「そ、そんな迷惑は……。」
「迷惑だなんてことないわよ。本当に命(みこと)ちゃんは可愛いわね。貴女が私の娘になってくれたら嬉しいわ……。」

「麗華様、お茶が入りました。」
「あら、ありがとう。命(みこと)ちゃんは紅茶飲んだことあるかしら?」

「かつ…如月さんの家にお世話になってからは飲んでます。」
「そう、お砂糖はいくつかしら?」
「じ、自分でやるので大丈夫ですよ!」

「そんなこと言わないで。命(みこと)ちゃんは大切なお客様なんだから。」
「でも、自分のことは自分でやらないと……。」
「あら、それは素敵な考え方ね。如月さんに教わったのかしら?」

「いえ、死んだ両親が…よく言ってました。自分のことは自分でやりなさい、命(いのち)ある限り頑張りなさいって……。」
「命(いのち)ある限り……とても素敵なご両親ね。でも命(みこと)ちゃん、この世にはね、どれだけ頑張っても……それこそ命をかけて取り組んでもどうにもできないこともあるのよ。そして、そのまま破滅の道へ落ちることもある。私はね、昔大切な人を2回失ったの。それこそ私の身体全てを尽くしたけど手の届かないところへ行ってしまった。でもね、ある日嬉しいことがあったの。大切な人が帰ってくるかもしれない……もう一度この手で触れられるかもしれないって。でも、手に入れようとしたら私の邪魔をする人がいた。どこかの誰かなら奪い去ることも簡単にできた。でもその邪魔をした人は私がよく知る人で信頼していた人。」

遠くを見つめるような目をしながら微笑む麗華さん。大切な人が帰ってくる……嬉しい話のはずなのに怒っているような声で話し続ける。

「あの、私はまだそういう難しい話は分からないですけど、奪い去るというのはあまりいいことではないと思います。」
「命(みこと)ちゃんは真面目なのね。でも大人の世界なんてそんなものなのよ。どんな手でも使ってほしいものは絶対に手に入れる。私はそういう世界が好きなの。ねえ、命(みこと)ちゃんならどうする?失ってしまった大切なものが手に入るとしたら。」
「私は……」

「命(みこと)、麗華さんから離れろ!」



麗華さんとの会話に詰まっていた時突然上から且功の声が聞こえた。いつもとは違う大きく何かを焦っているような声。


「私たち、ただお話してただけよ?」
「麗華さん、命(みこと)に何をするつもりですか?」
「何って、たくさん可愛がってるのよ。」


「それなら聞き方を変えますね。こんな世界に生きてなきゃ一緒にいられたのに……なぜそのような言葉を…?」

「あら、麗亜が話しちゃったの……大したことじゃないのよ。ただ、本来あるべき場所に…いるべき場所にいるのは当たり前のことだと思いませんか?繋がりを簡単に断つことなんてできない。それなのに……。」

「なぜそこまで命(みこと)に執着しているんですか?」
「それは命(みこと)ちゃんが可愛くて仕方がないからよ。」

「娘にしたいだなんて言葉は世辞で言うことはあっても本当に実行するような人間はなかなかいません。今日、貴女とお話をしていて…いや、話を聞いていて感じました。貴女からは尋常ではない程の命(みこと)への執念が見られます。まるで、失ったものを取り戻したかのような恐怖を感じるようなものを……。」

「あら、そう見えまして?やはり如月さんは人のことをよく見ていられてるんですね。でも、私が命(みこと)ちゃんに執着するのはあなたのせいでもあるのよ?」

「僕のせい…ですか…?」

「だって、あなたは私から大切なものを奪った。命(みこと)ちゃんは私のものなの。私が愛してあげる子なの。だってこの子は……」
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