人間オークション       ~100億の絆~
―且功side—
命(みこと)が入院してからずっと仕事をしていた。そして僕が壊れていくのを麗亜は傍で見ていた。麗亜はきっと僕のために自分を選ぶよう言ってくれた。だけど……たとえ忘れられていたとしても僕の中には命(みこと)との未来しか考えられなかった。

だから僕は……麗亜にも何も言わず、命(みこと)との思い出が欲しくて人間オークションが行われた会場に一人で来た。麗亜にも…咲月にも何も言わず、行方をくらました。思い出の先で死んでもいい、すべて夢だと思ってこの世を離れてもいい。そう思っていた。

「すみません、先ほど連絡した者です。」
「ああ、例のオークションの…。」

「少し、中を見てきていいですか?」
「私どもは構いませんが、貴方は大丈夫ですか?例のオークションはあの神無月家が主体となって行われていたとニュースになっていましたけど…」

理人さんは退院してすぐにマスコミを呼び、自ら人間オークションのことを語ったらしい。もちろん麗亜のことは隠し、理人さんと麗華さんの二人で責任を負うことにしたらしい。

「10分ほどで出ますので大丈夫です。」

命(みこと)のオークションの時と同じ席に座る。この会場はこんなにも広かったんだな。きっとあの時は命(みこと)という存在が大きくて、会場の広さなど気にもならなかった。

『命(いのち)ある限り』


命(みこと)のその言葉が僕の全てを変えた。あの時、僕は変わるべきなんだと思った。


ここで僕が死んでも命(みこと)はきっと何も思わない。ただ、人が死んだだけ。それすら思うかも分からない。

裏取引で手に入れた薬をポケットから出す。これを飲めば僕の人生は終わる。このまま辛い思いをするだけなら何もなかったかのように終わらせたい。

「さよならだな……命(みこと)。」



錠剤を口に入れようとした時、僕の身体は震え出した。



どうしてだ…?

どうして僕の身体は震えてるんだ…?このまま死んで楽になりたいと決めたじゃないか。すべてを終わらせると決めたじゃないか。なのになぜ……動けない。



『且功、大丈夫?』



命(みこと)の声が聞こえた気がした。目の前に命(みこと)がいるような気がした。



会いたい。命(みこと)に会いたくてたまらない。命(みこと)に触れたい。

たとえ僕のことが分からなくても……思い出せなくても…ずっと側にいたい。一緒に暮らしたい。まだまだ一緒にやりたいことがある。行きたい場所がある。命(みこと)と作りたい思い出がたくさんある。


そう思った時、簡単に死ぬのが馬鹿らしくなった。どうせ死ぬのなら僕にできることをすべてやりきってからにしよう。


これが命(みこと)が教えてくれた生き方だ。



『命(いのち)ある限り』



ひと欠けらしか希望がなくても僕は最後の賭けをしたい。
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