拾ったワンコは獣人でした。~イケメン獣人に求愛されて困っています。~

不穏な予感

若い職員は、部屋の中を見回すと、ベッドの上で上半身だけ起こしているコウヤを見つけた。
きょとんとした表情で職員の顔を見ると、何かを思い出したように口を”あ”の字に開けた。

「昨日、うちに来た人」

「……はい。インターホンを鳴らしましたが、
 どなたもお出にならなかったので、お留守かと……」

私がコウヤに、インターホンが鳴っても絶対に出ないで!と、強く言い聞かせていたからだろう。
私が仕事へ行っている間に、彼らが来ていたという事実に私は、血の気が引く思いがした。

若い職員は、部屋の中に犬の姿がないことを確認すると、玄関で待っていた年配の職員に向かって頷いて見せた。

「犬は、飼ってらっしゃらないようですね。
 大変失礼致しました」

二人の職員は、確認がとれましたので、と言って軽く会釈をして帰って行った。

私は、扉を閉めると、鍵を閉め、大きなため息を吐いた。

「ファム、大丈夫?」

「ちょっと、昨日あの人たちが来たなら、私に言ってよね。
 はぁー……寿命が縮むかと思ったわ」

「うん……でも、今の人たち、誰だったの?」

コウヤは、事情が分からず、不思議そうな顔で首を傾げている。

「動物愛護センターの職員だって。
 つまり、野良犬とか野良猫、飼い主のいない動物を引き取って、管理する人たち」

いまいちピンと来てなさそうなコウヤに、私は、言うべきかどうか迷ったが、
大事なことなので伝えておくことにする。

「前に、コウヤが純也の腕に噛みついたことがあったでしょ?
 たぶん、そのことで、コウヤを探してるんだと思う」

「俺、行った方がいい?」

「ダメよ! 絶対に見つかっちゃダメ!
 動物愛護センターっていうのは、可愛らしい名前で誤魔化してるけど、
 引き取り手のない犬猫を殺処分してる所なんだから。
 人を傷つけた犬なんて、捕まったら、どうなるか……」

大学のサークルで、犬猫の里親を探す活動をしていたため、私も何度か行ったことがある。
助けてあげられなかった子たちもたくさんいた。
その時の気持ちを思い出し、気分が落ち込んだが、とりあえず今は、コウヤのことだ。

「まぁ、コウヤが人間の姿で居れば、何の問題もないんだから。
 大丈夫よ」

すると、コウヤが少し言いにくそうな顔で頬をつつく。

「あー……そのことなんだけど、俺、実は……」

「何?」

コウヤが上目遣いで私を見る。

「新月の日だけは、人間になれないんだ」

「え?! そうなの??
 ……ってか、新月の日って、いつよ」

私は、慌ててスマホで検索をした。

「……って、明日じゃない!」

私が責めるような目をコウヤに向けると、コウヤは、肩をすくめて見せた。

「なんで新月の日は、人間になれないの?」

「んー……俺もよく分からないんだけど、
 何か月からもらってるエネルギーパワーとかがあんのかなぁ……」

呑気な口調で答えるコウヤを見て、私は、先行きに不安を感じた。

「と、とにかく、家から一歩も外へ出なければいいのよ!
 職員の人たちだって公務員なわけだし、日曜日まで仕事しないでしょう。

 ……いい? 明日は、一日、家の中で大人しくしてて。
 吠えたり、声を出してもダメよ」

「えー、トイレは、どうすればいいの?」

「え……」

それは考えていなかった。
今までコウヤがずっと人間の姿でいたので、普通にトイレを使っていたからだ。

「そ、そうね。じゃあ、ペットシーツを買ってくるわ」

他にも何か必要そうな物はないだろうか、と色々検索をして、私は、近所のスーパーへ走った。
一緒に行くとコウヤは言ったが、また外でさっきの人たちに遭遇しても嫌なので、私一人で行くことにする。
私は、妙な胸騒ぎを感じていたが、それを走っている所為にして、自分に言い聞かせた。

(大丈夫よね……何も起きないわよ、きっと)

スーパーから出て見上げた空は、雲が広がり、余計に私の気持ちを暗くするようだった。
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