敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

 叶多くんに大丈夫だと言った手前、こんなに早く根を上げてしまうのは悔しい。だけど、これほどまでに味方のいない状況を打破する方法が見つからない。昨夜は叶多くんも『くれぐれも無理をするな』と言っていた。

 だったら、一度スペインに戻って策を練り直した方がいいのかもしれない。

 なにより、叶多くんに会いたい。

「もし旅立たれるなら、旦那さまや奥様が帰ってくる前にお支度を」
「……ええ、そうね」

 泉美さんの冷静な助言に頷き、立ち上がった。目尻にほんの少し滲んでいた涙を指先で拭い、二階の自室へ急ぐ。

 使ったばかりのキャリーケースはまだ中身を完全に片付けてはおらず、旅行用の洗面用具や未使用の衣類などがそのままになっている。そこに足りないものを追加して数日は向こうで過ごせる準備をした。

 あとは貴重品の財布やスマホ、パスポートを手荷物に――。

「えっ?」

 いつもパスポートをしまっている机の一番上の引き出しを開けた私は、思わず眉根を寄せた。

 そこには銀行員や通帳など、大事なものがまとめてあるのだが、昨日しまったばかりのパスポートが見当たらない。

 ……別の場所に片づけた?

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