毒にまみれた世界にて
「やめろ?俺ーーーいや、秀がそう懇願した時、お前らは無視して、このババアは鞭を振るい続けたのに?」

「そ、それは……あなたが黒死家を背負っていく者として、完璧になってほしくて……」

義母が震えた声で言う。秀は「完璧ねぇ」と言った後、高らかに笑い出す。まるで刑事ドラマで追い詰められた犯人かのように、狂ったように笑った。その様子に、和子たちは何も言えなくなる。

「残念だが、一人で何でも完璧にこなせる人間はゼロだ。そんなこともわからないなんて、頭が沸いているとしか思えないな」

「さ、さっきから何の話をしてるんだ?」

怯える昂に対し、秀はニヤリと笑って言う。それは、三人を絶望に突き落とすには充分な言葉だった。

「急に和子が何でもできるようになって、性格や口調まで変わって、おかしいと思わなかったのか?あの日、お前たちの知る秀の心は壊れた。あの日以降、秀はこの世界から消えた。今お前たちの前にいるのは、秀が死ぬのを防ぐために作られた何人もの人格だ。多重人格と言えばわかるか?」

国語や数学など教科が変わるたびに中の人格も入れ替わっていた。だからこそ、秀は何でもできる優等生に見えたのだ。秀は布団叩きと和子たちを見て、ニヤリと笑う。

「お前たちは秀に完璧を押し付けた。だけど、お前らは親として完璧じゃない。だから、俺が躾直してやるよ」

その言葉が終わると同時に、また布団叩きが振り下ろされた。
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