エロゲの☆1キャラにイケメン魔王候補は荷が重い!!

1転生ガチャ大爆死


 とある集落から3刻ほど歩いた場所に、どこまでも広がる森が見える。蛍のような温かい光が舞う不思議なこの森は人々から精霊の森と呼ばれていた。
 数十年前までは荒れ果てた荒野であったが、ここ最近になって精霊が住み着き、彼女の魔法の力で数ヶ月の間に広大な森が形成されたという。
 今も精霊である彼女の手で木々が適切に管理されている。
 集落の人々はこの森からお溢れを貰って生活を営んでいる。恵み豊かな資源を享受する集落の人々はこの森の精霊の力と寛大さに感謝し、そして信仰していた。
 森の中はいつも白い光が舞っている。どこぞの詩人がその様子を白百合(ホワイト・リリー)のようであると評したことから、人々はこの精霊を「リリー」と呼んでいるという。





 神聖な森の奥地。
 そんな森の精霊として集落の人々に崇め奉られている私、リリーは、神聖な森の清浄な泉に入りながら、絶望に打ちひしがれていた。

「やばいやばいどうしよぉ」

 川面に映る真っ青な自分の顔を見て、悲鳴にも似たうわ言が自分の口から漏れる。とてもじゃないが精霊らしい表情ではないのは私が一番良く分かっている。

 泉に映るのは自分の姿。緑の髪と翠の瞳。ウェーブのかかった髪の毛には植物の棘や葉っぱや花が生えている。
 絶世の美女とまでは言えないが、ずっと見つめていても苦にならないくらいには整った顔だ。その顔も今は真っ青だけど。

 私の名はリリー。

「まさか、私って、あのリリー!?」

 勇者と魔王が戦争を起こす無慈悲な世界で健気に生きる一住民。


 そして今になってやっと、自分がゲームの☆1キャラだと気が付いた大馬鹿者です。




 私には前世の記憶があった。
 だから特別な何かができたというわけでは無かったが、物心ついた時には父親も母親も保護者も居なかったのに、野垂れ死ぬことなく弟と一緒に生き延びられたのは前世の記憶のおかげなのは確実。その点では前世の知識、というか前世の自分の生活能力には感謝しかない。
 前世は大学生だったみたいだが、剣と魔法の世界ではあまり前世の知識の出る幕は無かった。今世の私は人間ではないことも相まって、もはや人間時代の知識は無用の長物になっていた。

 物乞いの住民の話や周囲の反応、文字を習って読んだ図書館の本から判断するに、私は人間ではなくドライアドという種族に転生したことが分かった。
 ドライアドとは、木の精霊である。植物と対話できて、髪の毛が蔦のような特徴を持つ種族だ。
 前世には無い随分ファンタジーチックな種族に転生した。

 だから、前世と今生は全くの別もの。
 前世の生活能力なり精神力が今生でも役立つことがあっても、他の知識が今生で役立つことは無い、そう思っていた。

 だけど、一つ、引っかかることがあった。
 それは、物心をつけた時から川面で己の顔を見るたびにどういうわけか私は強烈な既視感に襲われていたこと。
 どこかで見たことがある、だけどどこだったかが思い出せない。
 科学が世界の道理だった前世でドライアドである自分の顔を見たことがあったというのは随分不思議だったけど。
 前世と今世の自分の顔は似ているのだろうか、いや前世、私はこんなに美人じゃ無かった。

 そんなことをぼんやり思いつつあっという間に18年が経過した。

 そして今やっと、私はこの既視感の正体に気が付いた。

「いや、流石にエロゲーのキャラだとは思わないじゃん!!」

 そう。
 私、リリーは男性向けの、それもR18規制のかかったエロゲーのキャラであったのだ。

 一時期前世の私がやっていたゲームだったため思い出せた。前世の私は女だったのだが、なぜ男性向けのエロゲを知っているのか、不思議にも思うが十年単位で気になっていたことが解決して非常にすっきりした。
 ……すっきりした、で終わる話だったらどれほど良かったか。

「リリーって確か、魔王に散々鳴かされるキャラ……」

 あのゲームの主人公は残虐無道な魔王である。地位より金より人望より何よりも女体を愛する外道な男であった。
 どれ位魔王が外道かというと、侵略した国の美人な姫や侍女を全て無理矢理後宮に閉じ込めて、欲望の赴くまま順々に夜御伽をさせるくらいには外道である。人間ではないが人間としてどうかと思う。

 そしてリリーもその魔王が侵略した国で略奪された女の一人として魔王の後宮に入るのだ。
 ゲームの中ではガチャとして演出されていたのだが、悲しいことにリリーは☆1の低レアリティのキャラであったので、何度も何度もガチャで出てくるのだ。
 前世の私がリリーを記憶していたのは何度もガチャでリリーを見ていたからなのだろう。

 そんな低レアリティのリリーだが、ちゃんと声優がついており、調教すると魔王とえっちなことをして、喘ぎ声をあげてくれる。
 リリーは森の神聖な精霊であり、汚れを知らないので、ちゃんと一つずつ教えてあげると自分好みの子に……。

「ぎぃやあああああ!!」

 森に私の叫び声が響く。木の上に泊まった白い鳥が驚いてどこかに飛んでいく。

 液晶上で見ていた時は巨乳でかわいいー、もっと泣いてくれー、とか思っていたが自分がそうなる可能性を考えると今は気持ち悪さしか無い。前世とはいえリリーのあられもない姿を見て楽しんでいた自分の正気を疑う。
 女子大生が男も作らず女の子の服が破れるR18エロゲをしている時点で正気ではなかったんだろうけど。

「道理でご飯あまり食べてないのに胸が大きくなるわけだ」

 ゲームだから女の造形なんて何でもありだ。ドライアドっていう種族なせいかとも思ってたけど、本の中のドライアドって結構貧乳多いのに変だなと思った。
 私が今までこの森から貰った果実や野菜は全て魔王の性欲のためのものだったと思うと一周回って何だか笑えてくる。
 
 いや、それより大変なことがある。

「つまり、私は、これから魔王に連行されて後宮で鳴かされて……?」

 ひっ、と喉の奥から悲鳴が上がる。
 ドライアドとはいえ、人外とはいえ、人並みに結婚願望はある。寿命の差に苦しみながら誰かと寄り添い合う、年甲斐なくそんな未来を夢見てしまう。

 だが、初対面の男のハーレムの一員だなんて死んでもなりたくない。しかも一生そこに縛り付けられるのだ。人並みの自由も与えられず。

「逃げよう」
 魔王がこの国にやって来る前に逃げてしまえば、魔王に捕まることはない。
 戦争捕虜として捕まってしまうと後宮に閉じ込められるが、魔界の住民として移住してしまえば捕まえられることはない。魔王は味方には悪いことはしないとか申し訳程度のフォローがゲーム内でもされていた。

「魔界に逃げよう」
 そう決めて泉から出ると、私は急いで身支度を始めた。
 
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