冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「俺が不安なのは…ただ一つ……
香世が…目を離した隙にいなくなってしまうんじゃないかと…
そう思うと…とてつも無い不安に襲われる。」

正臣が…男の人が、
心の中をこれほどまでに明け透けに見せる事に驚き戸惑う。

正臣はため息を一つ吐き、香世を解放する。

「すまない…。
自由意志だと言いながら…
これでは束縛しているようなものだな。」

離れてしまう正臣に少しの寂しさを感じながら、

「ご心配なさらなくても…
ここ以外、私の居場所はどこにもありませんから…。帰る場所など既に無いのです。」

香世は寂しく笑う。

「ならば、ずっとここにいろ。」

熱い目で見下ろされ、頬をサラッと撫でられ
香世は思わずビクッとしてしまう。

正臣は軍服を自ら取り、
バサっと羽織って自分でボタンを閉めていく。

香世はハッと我に返り、
再び支度の手伝いを再開する。

一つずつ装飾を軍服に付けながら、
どうしても正臣の事を意識し過ぎてしまう。

もはや顔を見る事も出来ない。

警棒、銃、短剣を順番に渡す。
短剣はやっぱり怖くて触るだけで手が震えてしまう。

「無理しなくていい。」

正臣は短剣をサッと奪い取り腰のベルトに納める。

「ありがとう。」
そう告げ、香世から離れて行く。

こんなにも優しく繊細な人なのに、
身に付けている全ては物騒で…
この人には不似合いだと思ってしまう自分がいる。

どれだけの重荷を背負って、
日々、命を削って任務を遂行しているのだろうか…心配にもなる。

どうか、ご無事にお帰り下さい。
と、香世は祈らずにはいられなかった。
< 81 / 279 >

この作品をシェア

pagetop