シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
「患者に嘘はつけない。それに昔の奈穂を知っているから余計にごまかせない」

 彼は手際よくエプロンをつける要領でクリップでペーパータオルを止めた。

「昔、母親に騙されてうちに来て、泣いていただろ?」

 たしかにそんなことがあった。あの時治療の後、ふくれていた私を慰めてくれたのはたまたま居合わせた朝陽くんだった。

 彼はそのときのことを覚えていたのだろうか?

「適当なこと言われるの嫌だろう?」

「それはそうだけど」

 それでも安心したいという思いがまだ心の中にある。しかしそれは自分が覚悟を決めるしかないということも同時にわかっていた。

「ごめんね、面倒な患者で」

「別にかまわないさ。歯科治療が好きなんてやついまだに会ったことないからな」

 医療用手袋をつけた手で、そっと私の顎辺りにふれた。

「俺がどうにかしてやるから、奈穂は奈穂でがんばれ」

「うん」

 彼が優しいまなざしで言ってくれたから、素直にうなずけた。

「じゃあ、口あけて」

 私はやっと覚悟を決めて、目をぎゅっとつむったまま思い切り口を開けた。

 彼が息を吐くかのように小さく笑った気がした。しかし次の瞬間には彼がなんらかの器具を手にして治療を始めたので、私はそちらが気になりはじめる。

「あぁ、これはたしかに痛いかもな」

 どんな状態になっているのか。知りたいような知りたくないような。

 彼が手にしているは小型カメラで、患部を写していた。

 一度体を起こして、診察椅子の目の前にあるモニターに映像を映し出した。

「これわかる? かなり状態が悪い。隣の歯は薬を塗るだけで大丈夫だか、ここはきちんと治療を施さないとダメだな」
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