好き……その言葉が聞きたいだけ。【完】
「終わった! それじゃあ私、ご飯作るね」

 ようやく部屋の片付けを終えた私は次に台所に立って夕飯の準備に取り掛かる。

「お前、本当によく動くなぁ。帰って来てから動きっぱなしじゃん。少しは休めよ?」

(そう思うなら部屋を散らかさないでよね)

とは言わず、

「やることはさっさと終わらせてから休みたいからいいの」
「そんなもんか?」
「そうだよ」

 そんなことを話しながら手を動かしていると、ピンポーン――とインターホンが鳴り響いた。

「何だ? 面倒だなぁ……」

 煙草を灰皿に押し付けた律は文句を言いながらも玄関へ向かった。

 すると、

「何の用だ?」

 玄関から聞こえてきた律の声は明らかに不機嫌で、誰が来たのか気になった私はこっそり覗き見ると、玄関に立っていたのは知らない男の人で、心なしか律に似ているような気がした。

 その人は私に気付くとニコリと笑って、

「もしかして、律の彼女? 意外だなぁ、彼女が女子高生だなんて」

 そう茶化すように笑いながら律に問いかけた。

 そんな彼の問いに更に不機嫌さを増した律は、

「アンタには関係ねぇだろ? さっさと用件を言え」

 より一層低い声で言い放った。

「……はいはい。律がきちんとやってるのか父さんも母さんも(すず)も心配してるからね、様子を見に来たんだよ」
「心配されることなんざねぇよ。俺は忙しいんだ。帰ってくれ」

 それだけ言うと、律は強引にドアを閉めて鍵を掛けてしまった。

「……律……?」

 無言で部屋に戻って来た律は窓際に座り煙草に火を付け始めた。

「……大丈夫?」

 怒りとは裏腹に律の表情は少し悲しげに見えた私の口からは自然とそんな言葉が出てきていた。

「……今のな、一つ上の、兄貴」
「……え? お兄さん!?」

 似ているのは当たり前だ、兄弟なのだから。

「追い帰しちゃって、良かったの?」
「ああ。関わりたくねぇからな」

 律は煙草を咥えながら冷蔵庫に向かいビールを取り出すと、再び窓際に座りながらプルタブを開けて勢いよくビールを飲んだ。

 話しかけづらい雰囲気の律をよそに私は再び夕飯の準備を始めたのだけど、どうしてこんなにも不機嫌なのか理由がサッパリ分からなかった。
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