好き……その言葉が聞きたいだけ。【完】
 その時、私のスマホから着信音が鳴り響く。

「…………」

 画面を見ると、着信は律から。

「……出ないの?」
「……ええ、今は、いいです」

 私のその返しで、着信が律からだと分かったのだろうか。お兄さんは私の手からスマホを取り上げると、

「ちょっ、何して――」

 私の問いかけを無視して勝手に電話に出てしまった。

「もしもし、律?」

 私の電話にお兄さんが出れば、当然律は驚くだろう。

 お兄さんは電話をスピーカーに切り替えると案の定、

「おい、何でテメェが琴里の電話に出んだよ? お前まさか、琴里と居るのか?」

 もの凄く怒っている律の声が聞こえてきて、私がお兄さんと一緒に居ることに気付くと酷く慌てた様子だった。

「そうだよ。街で偶然会ってね。ちょっと話がしたくて誘ったんだ」
「はあ? お前が琴里と何話すんだよ? つーか、話す相手が違ぇだろうが! まずは家に帰って、鈴と話せよ」
「うーん、だって鈴と話しても平行線のままじゃん。鈴は俺と別れたいんでしょ? でも、俺は別れたくない。これ以上何を話せっていうんだよ?」
「だから、別れたくねぇなら何でテメェは他の女と遊び歩いてんだよ? 別れたくねぇなら態度を改めろって言ってんじゃねぇか」

 律は私が聞いていないと思っているのか、話は鈴さんとお兄さんの話へと変わっていく。

 話を聞く限り、お兄さんの方は鈴さんと別れたくはないみたいだけど、それなら何故、彼は他の女の人と会ったりしているのだろうか?

 きっと律も同じことを思っていると思う。

 何だか、思ってる以上に複雑な事情があるのかもしれない。

「とにかく、今日は律の彼女と楽しい時間を過ごさせてもらうから、律は鈴と楽しめばいいよ」
「はあ? テメェ、いい加減にしろよ? つーか今すぐ琴里を解放しろよ」
「人聞き悪いなぁ、それじゃあまるで、俺が無理矢理彼女を連れ込んだみたいじゃん。琴里ちゃんは自分から俺に付いてきたんだよ? ね、琴里ちゃん?」

 ここでようやく、律は電話がスピーカーになっていることに気づいたらしく、

「おい、琴里! お前、何考えてんだ? 今すぐそいつから離れろ」

 今度は私に向かって言葉を掛けてきた。

「……律……大丈夫だよ、話してるだけだから。心配、しないで」
「駄目だ。今どこだ? すぐ迎え行く」
「…………」
「琴里?」
「……律に、駄目なんて言う資格……あるの?」
「は?」
「……だって律は、お兄さんがいない間、鈴さんの傍にいるんでしょ? 女の人と、二人で……いるんでしょ? だったら、私が今、お兄さんと二人で居ても、何も言えないと思う……」

 こんなこと、言うつもりじゃなかった。

 律は心配してくれていたのは分かった。

 でも、私にだって言い分はある。

 私だって、本当は鈴さんの傍にいて欲しくなんかないの。

「おい、琴里……」
「――律、お義父さんが呼んでるわ」
「悪い、後で行くって言ってくれ。今取り込んでんだ」
「そう……」
「おい、琴里――」

 タイミング悪く鈴さんが部屋に入って来たのか、彼女の声が聞こえて来た私は、律が何か言いかけたのは分かったけど、それを聞くことなく電話を切った。
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